前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんは、腫瘍の多くが前立腺の外側に近い辺縁領域に発生します。前立腺中心部を通る尿道からは遠く、腫瘍がかなり大きくならないと、排尿障害や痛みなどの症状はあらわれません。辺縁領域に発生した腫瘍では、2センチほどの大きさになっても、尿道を圧迫しないことは珍しくありません。

がんがかなり進行すると、腫瘍が大きくなり、尿道を圧迫するようになります。こうなると、尿の勢いがなくなったり、尿をうまく出せない排尿困難や頻尿などが起きるのです。これらは前立腺肥大症の症状と似ており、勘違いする人もいます。前立腺がんを発症する年代は、前立腺肥大症の多い年代でもあるためです。

がんが、発生した臓器から周囲の臓器へ広がることを「浸潤」と言いますが、前立腺がんが進行すると、がんが尿道や膀胱(ぼうこう)・精嚢(のう)へと浸潤、血が出ることもあります。

また、がんが進行、大きくなるとほかの臓器に転移するようになります。転移することが多いのは、骨、ことに脊椎(背骨)や骨盤骨、腰椎(要骨)、肋骨(ろっこつ)などへの転移が多く見られます。前立腺がんの骨転移は背中や腰の痛みとして自覚されることが多く、腰痛などと間違えられることも多いです。背骨に転移したがんが進行すると、足のしびれや運動障がいが起きたり、骨がもろくなって、骨折につながることもあるのです。

さらに、骨以外に転移しやすいのが、リンパ節なのです。リンパ節とは、全身の組織から集まったリンパ液が流れるリンパ管の途中にあるふくらみで、体の外部から侵入した細菌などを排除する免疫機能の一部を担っている場所。前立腺がんがリンパ節に転移し腫瘍が大きくなると、静脈を圧迫したり、下肢がむくんだりするだけでなく、リンパ管経由でほかの臓器にがんが転移することがあります。

肺や肝臓、胸膜、副腎など転移することもあり、肺に転移すると、せき、血痰(けったん)、息切れなどの症状があらわれたりします。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。