前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんの治療法は、がんの「進行」と「リスク分類」に合わせて適切に行われます。がんの進行度を示す分類が「TNM分類」と呼ばれるものです。

「T」は原発腫瘍。つまり、他の臓器から転移してできたものではなく、前立腺にがんがあるかどうかを示します。この時期の判断には直腸診、MRI(磁気共鳴画像装置)検査が使用されます。

「N」は、所属リンパ節転移。リンパ節への転移の有無を示します。判断にはMRIやCT(コンピューター断層法)が使用されます。

「M」は、遠隔転移。骨、肝臓、肺など前立腺から離れた臓器に転移があるかどうかを示します。判断には、CTやシンチグラフィー(放射性同位元素を注射して撮影する法)が使用されます。

これらの検査法で、がんの大きさなどを次のように分類します。

「T0」=がんは見つからない

「T1」=がんは触診や画像診断で見つからない

「T1a」=病理検査で偶然発見され、がんは切除した部分の5%以下

「T1b」=病理検査で偶然発見され、がんは切除した部分の5%以上

「T1c」=PSA(前立腺特異抗原)高値などからがんが生検で発見された

「T2」=がんは前立腺のなかのみにある

「T2a」=前立腺の片葉2分の1以下

「T2b」=前立腺の片葉2分の1以上

「T2c」=両葉に広がっている

「T3」=がんは前立腺の外にまで広がっている。

「T3a」=前立腺皮膜の外側

「T3b」=精嚢(のう)に浸潤

「T4」=がんは精嚢以外の隣接組織(外括約筋、直腸など)に広がっている

「N0」=リンパ節に転移なし

「N1」=リンパ節に転移あり

「M0」=遠隔転移なし

「M1」=同あり

また、がんの悪性度を示す分類が「グリーソンスコア」。針生検で採取した前立腺組織を顕微鏡で観察。組織の状態から悪性度を1~5段階で評価します。がんのグレードにはばらつきがあるため、最も多いグレードと次に多いグレードの合計が同スコアになるのです。スコアの2~6が「悪性度は低い」。7が「中間」。「8~10」が「悪性度が高い」との診断になります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。