前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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恐らく、泌尿器の病気のなかで男性の方が一番困っているものの1つが、「ED」ではないでしょうか? 正式名称は「Erectile Dysfunction」。いわゆる「勃起障がい」のことです。

EDの一般的な定義は「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態」。広義で言えば、男性の「性機能障がい」のうちの1つです。男性の性機能障がいには、次の3つがあります。セックスをする気が起きない「性欲の低下」、絶頂感を味わうものの射精しない「射精障がい」、セックスはしたいが、勃起しない症状が、この「ED」に当たります。

EDの「リスクファクター」(危険因子)は多くあり、うつ、ストレスなど精神的因子による「心因性ED」、糖尿病や高血圧などによる「器質性ED」、それらの病因が混合する「混合性ED」に分類されます。なかでも、「加齢」は、EDの最重要リスクファクターと言えましょう。

たとえば、欧米7カ国の50~80歳の1万2815人を調査した研究結果によると、その調査で「勃起できますか?」という質問への回答で「勃起しない」と「硬度の低下」をEDと定義していますが、50歳代で約30%、60歳代で約51%、70歳代で約76%の有病率(ある時点での疾病を有した人の割合)でした。1998年(平10)に日本で行われた調査(全国100地点で2000人を無作為抽出)でも、EDの罹患率(りかんりつ=一定期間内にどれだけの疾病者が発生したかを示す)は、年齢とともに上昇していました。

また、ブラジル、イタリア、マレーシア、日本4カ国の40~70歳の2417人を調査した研究では、「満足な性行為を行うに十分な勃起を得て、持続できますか?」という設問に対して、EDと定義される「たまに」と「まったくない」を合わせた有病率が、ブラジル約16%、イタリア約17%、マレーシア約22%だったのに対して、日本は約35%と、高いものでした。

日本人と米国人の比較調査では、日本人のほうが性機能の低下が著しく、70歳代では71%が「中等度」ないし「完全」EDというものでした。このように、EDの症状を訴える人は世界でも加齢とともに増え、日本人はその傾向が強いようです。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。