男性ホルモンの「テストステロン」は、「筋肉、骨、血液を作る」ことのほかに「動脈硬化、肥満を予防する」「認知機能に関与する」など、男性の体を大きく左右しています。

これは健康に大きく関係するところですが、テストステロンは“男の生き方”にまで深くかかわっているのです。

それは、チャレンジ精神、冒険など、自分の世界を広げることにも関係するとともに、自分自身の仕事にまで関係することが、世界のさまざまな研究でわかってきています。

非常に興味深い研究の1つが、イギリスの社会科学者のコーツ氏の研究。研究対象はロンドンの金融街で日々勝負を展開している17人の男性トレーダー。コーツ氏は17人の唾液サンプルを採取して分析した成分と、17人が稼いだ利益との相関関係を調べたのです。結果、大きくもうけたトレーダーは、テストステロン値が高いことがわかったのです。

つまり、重大かつ迅速な決断にはテストステロンが大きく影響する。そればかりか、成功体験を重ねることで、さらにテストステロンの分泌量がアップすることもわかりました。このように仕事ができるのも「男らしさ」であり「男の魅力」。それも、テストステロンに負うところが大きいのです。

ただ、ごく普通に生活をしていると、このように重要なテストステロンであっても、20歳を超えるとゆっくりと低下し始めます。すると、男性にとってさまざまな問題が起こってくることに。それは、次回に。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。