歯周病と関連する全身疾患のなかで、最も研究が進んでいる分野のひとつが糖尿病です。糖尿病になると網膜症や神経障害、腎症といったさまざまな合併症を引き起こしますが、現在、第6番目の合併症として歯周病が治療ガイドラインに明記されています。

糖尿病の患者さんは歯周病が進行しやすく、また、歯周病があると糖尿病が悪化しやすいという双方向の影響があり、内科と歯科との連携が必須になります。

糖尿病治療の基本に食事療法がありますが、総エネルギー量だけでなく「食べる順番」も重要とされています。2型糖尿病患者における食事の順番によって、どの程度血糖値の変動があるかを5分おきに調べた研究があります。

「<1>糖質<2>タンパク質<3>野菜」の順と、「<1>野菜<2>タンパク質<3>糖質」の順に摂取した場合を比較した結果、野菜を先に食べたほうが血糖値の上昇が緩やかであることがわかりました。

食後の血糖値の急上昇を「血糖値スパイク」と呼びますが、高血糖の状態が長く続くことで血管の弾力は失われ劣化します。糖尿病を発症した後に、血流が滞る動脈硬化や、毛細血管が詰まり腎臓や目に障害が生じる理由もすべてはこの血管のダメージに起因するのです。

歯科では歯周病の治療とともに、かむ力がしっかり保たれているかも診ています。咀嚼(そしゃく=すりつぶし)や嚥下(えんげ=飲み込み)といった口の機能が弱ると、食物繊維が豊富な野菜や肉がうまくとれず糖質偏重食になるからです。

千葉県歯科医師会では、2019年に「8029(ハチマル肉)・健康寿命延伸事業」を立ち上げました。80歳になっても肉(タンパク質)を摂取できる元気な高齢者を増やしていこうという運動です。しっかりお肉が食べられる、つまり、年齢を重ねてもよくかめることは健康への近道なのです。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。