日本人の生活習慣病予防に役立つ多くの研究を行っている国立がん研究センターの調査によると、喫煙や運動不足といった生活習慣に加え、イライラを感じやすい性格や怒りの感情といった心理的要因が健康に悪影響を与えるということがわかっています。

循環器および、がん疾患の既往がない40~69歳の男女約8万8000人を対象に「ご自身の生活を楽しんでいると思われますか?」というアンケートを行い、生活を楽しんでいる意識(高・中・低の3段階)と循環器疾患発症との関係について約12年間の追跡を行った結果、男性の「生活を楽しんでいる意識」の高いグループに比べ中程度のグループでは1・2倍、低いグループでは1・23倍循環器疾患発症リスクが高かったのです。

死亡リスクについても男性は中程度のグループで1・15倍、低いグループで1・61倍高いという結果が出ています。こうした傾向は男性に顕著で、女性の場合は関連が見られなかったのですが、ストレスによる順応力の性差や女性ホルモンの働きによる循環器疾患予防作用も関与しているのではないかと言われています。

コロナ禍で目に見えぬストレスを感じている方はたくさんいらっしゃると思いますが、こうしたデータをひもとくとストレスの蓄積がいかに恐ろしいかを考えさせられます。この1年で、食いしばりによる歯の破折や顎関節の痛みを訴えて歯科を受診される患者さんも増えましたし、私自身が最初の緊急事態宣言初日に奥歯が欠けるというエマージェンシーにも見舞われました。

「メンタル面をポジティブに!」といってもかつては非常に抽象的なイメージでしたが、近年では脳活動に関する研究が進み、気分を左右する神経伝達物質を増やすための行動についてもさまざまな検証がなされています。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。