メジャーリーガーがガムをかんで試合に臨んでいる姿をテレビ中継で目にすることがあります。かむという行為にはストレスを軽減させ、緊張を和らげる働きが期待できるからと言われています。

主役になるのは「セロトニン」という神経伝達物質で、脳内で分泌され、感情のコントロールや心の安定に深く関わります。セロトニンが分泌されると不安やイライラといった負の感情を覚えることがなくなり、集中力が高まることで仕事や勉強がはかどるという仕組みです。

このセロトニンは一定のリズムで反復する動作を行うと分泌が高まることがわかっており、なかでも「かむ」ことは皆さんが日常生活で簡単に取り入れやすい習慣のひとつです。普段の食事にかみごたえのある食材を選択して、しっかり咀嚼(そしゃく)する(かみ砕く)ことも効果的ですし、間食にガムを利用するのも良いでしょう。

セロトニンの分泌はリズミカルな運動が始まって5分ほど経過してから始まると言われており、徐々に濃度が高まり20~30分でピークに達します。味がしなくなったらすぐにガムを捨ててしまうという方は十分な恩恵を受けられていない可能性がありますので、糖類で表面がコーティングされた糖衣ガムなどをうまく利用してかむ時間も意識してみてください。

クリニックで取り扱う歯科専売品のガムには、虫歯菌の成長や増殖を抑制するキシリトールのパーセンテージが高いものや、歯の再石灰化を促進する成分が含まれたものなど、特定保健用食品(トクホ)として販売されている商品もあります。目的に応じて成分や効果を確認して選ぶと、虫歯予防や歯の強化にも一役買ってくれます。

かむことによって口の機能は活性化するため、唾液がたっぷり出るようになることも全身の健康に有益です。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。