面倒見のいい、おばあちゃんがいました。脳卒中になり、ぼくが在宅ケアで診ていました。優しい人で、困っている人がいれば手を差し伸べる方でした。

おもてなしも大好き。行けば必ず、お茶やご飯を出してくれます。往診の際は何も頂かないことになっているのですが、ばあちゃんがどうしてもお茶を飲んでいけというのです。

■ダジャレもいい

お茶菓子には手をつけず、お茶だけをひと口頂いて、ばあちゃんの耳元で「うまかった」とぼくがお礼を言いました。するとばあちゃんは「うしまけたかね」と答えたのです。

わけがわかりません。頭のしっかりした人だと思っていたのに、認知症になったかなと思いました。ところが認知機能が低下気味なのは、ぼくの方だと後で気がつきました。

ぼくが「馬勝った」と言ったので、ばあちゃんはダジャレで「牛負けた」と答えたのです。こういうユーモアに包まれていると、家族の介護も最後までパワーがありました。

いよいよ、ばあちゃんの意識がなくなりかけたというので、ぼくが飛んでいくと、臨終の場になっていました。みんなに慕われていたばあちゃんは、親戚の人や村の人たちに囲まれていました。部屋中人がいっぱいです。

ぼくは人をかき分けて、ばあちゃんのもとに寄り、「カマタが来ましたよ」と呼びかけました。ばあちゃんがそっと目を開けました。(つづく)