この数年、「口の中をきれいにしないと怖い病気になるとテレビで言っていました。どうしてでしょう。」と患者さんに質問される機会が増えました。

この理屈を簡単に説明しようと思います。人体はとても精巧な作りをしており、ストレスなどの外部刺激に対して、生体内部の環境を一定に維持しようとするホメオスタシス(恒常性)という機能を持っています。暑い夏に汗をかき体温を下げることもそうですし、筋トレをしてたまった乳酸で動けなくなっても、やがて回復するのはこうした機能が備わっているからです。

そのひとつに、細菌やウイルスのような有害な敵から身を守る防衛反応があるのですが、これが皆さんもよく耳にする「炎症」という反応です。

炎症には必ず原因があり、なくなれば解消します。風邪をひいた時や親知らずを抜いた時などに起きる炎症は「急性炎症」とよばれ、たいてい数日から1週間程度でおさまります。ところが、原因刺激がなかなか解決しないと長期間だらだらと続く「慢性炎症」になってしまいます。

歯科の慢性炎症として代表的なものが歯周病です。歯のまわりにこびりついたぬめり汚れ(バイオフィルム)や根元の歯石が体にストレスを与える悪者と認識されるため、排除されるまで反応が続くのです。歯周病の一般的な症状として歯ぐきからの出血がありますが、これは局所の毛細血管が破綻しているということです。

炎症が起きると、それをさらに活発にする炎症メディエーター(仲介物質)が生まれますが、損傷した部位から血流に乗って全身にまわり他の臓器も刺激します。火種があるところにどんどん飛び火して火事を起こしてしまう。これが、歯周病がさまざまな病気の発症や悪化を引き起こすといわれるゆえんです。