歯周病菌は「嫌気性菌」といって空気を嫌う菌です。歯周ポケットに潜んでいる菌が手ごわい理由は、そもそも酸素に触れない、つまり人間の手が届きにくい部分で増える生物だからです。

歯周病が進行し、炎症によって歯を支える骨が溶かされてしまったような場所では、深い部分まで食べかすや菌が侵入し、集落となるバイオフィルム(歯垢=しこう)や歯石がどんどん積み重なっていきます。こうなるともうお手上げ状態です。

歯周病菌がのびのびと暴れまわる危険区域を保有している宿主(人体)は、そこから常時放たれる炎症因子と闘いくたびれ果てているはずなのですが、不思議なことに歯周病は自覚症状が乏しいという点も厄介です。やむを得ず抜歯に至った患者さんは抜いた歯を眺めて「こんなに根っこの先まで汚れがこびりついても何も感じなかったなんて…」と口々にお話しされます。

ばい菌ごときで痛みが頻発し、食事がとれないようでは生命維持できないからでしょうか。けなげで神秘的な人体がとてもいとおしく思えます。宿主と歯周病菌の均衡が崩れた時に現れる腫れや痛みへの対処法として、抗生物質やうがい薬を頼っているという方もいらっしゃるかもしれません。

飲み薬として体に入る抗生物質の場合、小腸で吸収された後に血液中に入り局所に作用していきます。実際のところバイオフィルムという要塞(ようさい)で守られている歯周病菌にはその効果が届きにくく、周辺を漂っているような少し弱い菌からやっつけられていきます。

うがい薬は口の中全体の細菌数を減らす効果がありますが、やはり親玉まではなかなか届きません。徹底的なケアでバイオフィルムを根こそぎ破壊した状態でうがい薬の使用を開始し、細菌の再付着を抑制することが適切な使用法とされています。