一般の方向けの講演やセミナーを行うと、必ずと言ってよいほど「虫歯や歯周病はうつりますか」という質問が寄せられます。

「菌はうつるが、発症するかは宿主次第」というのが現在考えられている説です。こうした疾患の原因菌に限らず、口の中の常在菌は他人の唾液によって定着することがわかっています。

生まれる際に産道を通った瞬間から赤ちゃんの口に細菌感染が始まり、その後乳歯の奥歯が生え始める1歳半頃には虫歯菌が定着する頻度が高いようです。感染経路は主にお母さん、あるいは家族など周囲の人の唾液とされているため、昔は当たり前だった家庭内での食器やスプーンの共有はほとんど見かけなくなりました。

ただ、かわいいのあまりにほっぺたに「チュッ」としてしまうのは防ぎようがありません。スキンシップに神経質になりすぎないことも大切です。もし家族に虫歯がある場合は徹底的に治療をし、きちんと毎日のケアを行って常に清潔な口を心がけてください。

コップ1杯の水でうがいをするだけで口の中の菌を大幅に減らすことができるのですが、その後時間がたつと徐々にまた増えてくるというのも細菌の特徴です。私たちが歯科治療を始める前に患者さんに口をゆすいでいただくのは、こうした特徴を踏まえて院内に飛散する細菌数を減らしたいという目的からです。

知識をうまく活用し、お子さんと触れ合う前の洗口だけでも習慣にしてみてください。虫歯の発症には細菌の存在だけでなく、糖質と歯質、さらには時間が関係してきます。つまり、虫歯菌が定着したからといってすぐに虫歯ができるわけではないということ。

フッ素を応用した宿主側の歯質強化、ダラダラと飲み食いを続けて歯が溶けやすい環境をつくらないといった日常生活の努力が鍵になってきます。