立ったり歩いたり座ったりという何げない日常生活には多くの筋肉が使われています。筋肉の力すなわち筋力は、使わなければ衰えてしまうことがわかっており、寝たきりの状態になると3~5週間で約50%の筋力低下が起こるとされています。

こうした「不活動状態により生じる二次障害」を医学用語で「廃用症候群」と呼びます。骨格筋の萎縮や代謝障害、心理的荒廃など、影響は多岐にわたるのが特徴です。動かせないことによって弱る、これは口の中も同じです。

訪問診療に伺った際、要介護者の患者さんにはクリーニングとともに口周りのマッサージや唾液分泌を促すストレッチを行いますが、これは普段ご自身で動かせていない筋肉を刺激することによって、萎縮してしまった力を回復させたいという意図もあります。

マスク装着によって動きが制限されている今、皆さんの口周りの筋肉も衰えている可能性があります。口臭の原因である舌苔(ぜったい=舌の汚れ)がなぜ付着するかというと、動かさない時間が長引くことで唾液が循環せず、洗浄作用が働かないことも理由のひとつです。舌の汚れを鏡の前で確認するついでに、前に出す、左右に思いっきり振る、口を閉じて舌の先をのどの奥に送るイメージでたたむなどの動きを日課にしてみてください。

また、唾液腺を刺激することで分泌を促すマッサージも覚えておくと良いでしょう。耳下腺(左右の耳たぶの下付近を人さし指でグルグル回す)、顎下腺(左右の顎骨の下付近を親指で触り、やわらかい部分を移動させながらグーっと押す)、舌下線(左右の顎の真下に親指を添え、舌を突き上げるようにギュッと押す)という3つがポイントです。唾液がたくさん出ると食後の消化を助ける働きも期待できます。まさに自然治癒力のパワーです。