<15>自分に合ったツールを知ろう

全国から抽出された国民を対象とした調査統計のなかに、厚生労働省が5年ごとに行っている「歯科疾患実態調査」があります。歯や口の実態を調べたデータは今日までの口腔(こうくう)保健や歯科医療対策の推進に役立てられていますが、この調査によると1960年代前半までは「毎日歯を磨く人」は国民の6割程度だったそうです。

現代日本では誰もが毎日歯を磨き、そのうちの約8割は1日2回以上磨いているのですから、口腔衛生の概念が飛躍的に変わった時代といえます。当然セルフケアに使用するツールの数や種類も、昔とは比にならないほど増えているのですが、自分の口に合っているか、わからずに購入している人が多いようです。

何でもスマホで調べられる時代ですから、「歯の磨き方」と検索すると数多くの方法や画像が出てきます。ところが「自分の口に合う歯ブラシ」と入れても残念ながら正確な情報は把握できません。ヘッドは小さめ、毛の硬さは普通でナイロン素材のもの、持ち手はストレート…といった「どんな人にも無難に薦められる3つの基本情報」だけは知れても、果たして昨日ドラッグストアで購入したものが本当に自分に適しているかは不明なままです。

客観的に判断してもらう方が確実ですから、ささいなことでも歯科医院を活用してください。私が歯科医師になりたての頃、年配の女性患者さんの歯ぐきが毎回不自然に傷ついているのが気になり、自宅で使用しているアイテムを見せていただいたことがあります。驚いたことにこの方は「歯ぐきを鍛えたい」と、タワシのように硬いブタ毛の歯ブラシと粗塩で毎日ごしごし磨いていたのです。思い込みほど怖いものはないと感じた経験でした。歯ぐきはスパルタ式では育ちませんし、過保護なくらい丁寧に扱ってちょうどよいのです。