ヤニや茶渋が気になるからと、かぶせ物(差し歯)の表面を「かため」の歯ブラシで毎日ゴシゴシこすっているという患者さんがいました。そのうちにもっと着色汚れがひどく付くようになったとのことで、困り果ててクリニックを受診されたのです。

かぶせ物の素材によっても着色の頻度は異なりますが、保険適応のかぶせ物であればプラスチック(レジン)が使用されていることが通常です。天然の歯の表面を覆うエナメル質は人体で最も硬い場所ですが、プラスチックはそれよりもはるかに軟らかく、強い力でこすることにより当然傷がつくのです。

食器をイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。陶器はつるんとした艶があり、汚れがさっと落ちます。エナメル質も同じです。かたやプラスチック製のものは時間とともにくすみが出てきます。食品の色やにおいを吸ってしまうからです。食器洗い用のスポンジにも「プラスチックを傷つけないソフトな仕様」などと注意書きがしてありますよね。口の中もまさにこうした扱いを心がける必要があります。

毎日のことですから、たかが歯ブラシといえども侮れないのです。こうした悩みをお持ちの場合は「かため」を避けた方が無難です。歯科医院に行き、まずは付いた汚れが取れるかを相談してみてください。プロの手できれいになった後、また同じケアや生活習慣ではすぐに元に戻ります。次の4つを試してみましょう。

<1>色の付きやすい嗜好(しこう)品を摂取した直後は水でしっかりゆすぐ。<2>歯ブラシは「ふつう」以下の毛先の太さを選び、力を入れずに丁寧に磨く<3>凹凸の部分に汚れが残りやすいので、隙間を磨けるタフトブラシやフロスなどを取り入れる<4>「汚れを浮かせて取る」効能の歯磨き粉を使用する。粗い研磨剤入りは逆効果です。