肝臓がんは「手術が基本」、それも「開腹手術」といわれていました。そこに「腹腔(ふくくう)鏡手術」が登場してくると、身体に優しい手術だけに、より患者さんにとって有効な手術になりました。肝臓がんで腹腔鏡手術が保険適用になったのは2010年。その時は肝臓の外側部分の切除だけに限られていました。それが、16年からは開腹手術と同等の手術として保険適用になったのです。
腹腔鏡手術は、10年当時まだまだ安全性と確実性を高めていかないと開腹手術並みにはならない、とわかっていました。そこで、私たちは腹腔鏡手術を開腹手術並みにするために「術中の手術ナビゲーション」と「ICG(インドシアニングリーン)蛍光法」を導入するように考えました。
まず、術中の手術ナビゲーション。これは私が考案・開発し、12年から腹腔鏡手術に取り入れました。初めての道でもカーナビがあると間違えずに目的地に着くことができます。それと同じで、手術ナビゲーションがあると切除しているところがわかります。患者さんのがん情報を3D画像で作り、それにGPS搭載の超音波装置と磁気ポジションセンサーを導入しました。すると術中の電気メスなどの位置もわかるようになったのです。術者だけでなく、手術のチームメンバーも手術している位置がわかります。
加えて、ICG蛍光法-。私どもはICG蛍光法を使うことで、肝臓の切除区域を同定できることを世界で初めて報告しました。08年のことです。ICGは緑色の色素で、近赤外線光を照射すると蛍光を発して視覚化する特性があります。さらに、ICGは血液中のたんぱくと結合して肝臓に取り込まれると、胆汁の中に排せつされます。ただし、がんの内部や周囲ではICGは停滞する特性があります。そこに近赤外線光を照射すると、手術中にがんのある場所を確認できるのです。これを14年から腹腔鏡手術にも導入しました。ICG蛍光法をガイドに切除すると、開腹手術と同レベルの手術ができると考えています。
術中手術ナビゲーションとICG蛍光法の導入により、開腹手術中心だった肝臓がんの手術が、2014年から「身体に優しい腹腔鏡手術時代」となりました。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

