今回が最終回なので、「肝臓外科医だから見えてきた医療の未来」を説明させてください。
「外科手術は“身体に優しい手術”になったので、合併症は減ったでしょう」と、よく言われます。しかし、いろんな統計を見てみると、外科手術はまだ合併症が増えているのです。それは高難度化した手術に、今の外科医が取り組んでいるからです。難易度の高い長時間手術となると、ストレスがかかり、認知能力が欠落することで合併症を引き起こしているのでは-という論文があります。
では、どうすると外科医がニアミスを改善したり、見逃しを改善したりできるのか。私は、一番大事なのはミスになりそうなものを視覚的に見せてくれる、そういうものがあると認知能力が落ちることがなくなる、と思いました。08年に世界で初めて「ICG(インドシアニングリーン)蛍光法」を解剖学的肝切除に導入。現在、ICG蛍光法は多くの施設で腹腔(ふくくう)鏡手術にも活用されています。
ICGは血液中のたんぱくと結合して肝臓に取り込まれると、胆汁の中に排せつされます。ただし、がんの内部や周囲ではICGが停滞する特性があります。そこに近赤外線を照射すると、術中にがんのある部分を確認できます。ICGで光っているところ、光っていないところを頼りに手術すると、外科医はロードマップを手にした形で手術ができるのです。
さらに、私たちはAIを加えました。企業とコラボで開発したもので、世界初です。肝臓の中の血管、「門脈」「肝動脈」「肝静脈」をそれぞれ色分けし、術中に血管が出てくるとAIによって色分けされ、どの血管かが分かります。これが私たちの目指している「色分け手術」。今、トライアルしており、腹腔鏡手術ではすでにそれはできています。ただし、現時点でAIのシステムは保険適用ではないので、患者さんには行っていますが、あくまで研究用です。
今年、胃や大腸で承認され、今後は肝臓でも臨床応用が可能になる、と言われています。この機能が内視鏡やロボット手術に付くことで、手術の安全性は大きく改善し、確実な手術ができます。これが、私の思っている「医療の未来」です。(おわり)(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

