手術は治療と言っても、身体は傷つきます。特に問題なく手術が終了しても、術後合併症が起こることもあります。術後合併症とは手術後に起こる余病のことです。「食道がん」の手術においては、他の消化管(胃・大腸)手術とは違った特徴的な合併症があります。
その一番の合併症が「反回神経麻痺(まひ)」です。反回神経は脳から声帯を動かす指令を伝える神経で、食道や喉頭の脇の両側を通っています。食道がんではリンパ節を切除するので、どうしても左右の反回神経に触れやすく、片側にマヒを起こすことが多い。片側の声帯が動かなくなるのです。そうなると空気が抜けてかすれ声になります。90%の人は3~6カ月で元に戻りますが、かすれ声が残ってしまうケースもあります。このリスクは全国平均で20~30%ですが、私たちは3%程度まで下げることができています。これが両側で起こると、自分で呼吸ができなくなり、気管切開を行って呼吸を補助しなくてはならなくなります。この可能性は、私どもではほぼ0%です。
次に多い術後合併症は「縫合不全」。食道を切除した後、食道の代わりに胃と食道上部をつなぎ合わせます。時として、これがうまくつながらないことがあります。これが縫合不全です。多くの場合(95%)は、一部がつながっていないだけで、食事が1~2週間摂れなくなりますが、しっかり我慢して待つことで縫合不全は自然に治ります。ただ、問題がなければ術後10日から2週間で退院できますが、縫合不全を起こすと退院までに1カ月以上かかってしまいます。
このほかにも「不整脈・心房細動」「肺血栓塞栓症」「気胸」「肺炎」「無気肺」など数多くあります。私たちは、手術前に十分な説明を行い、手術のすべてを知って治療を受けてもらっています。この合併症を念頭に、術前・術後に予防対策、治療を行っているのです。(医学ジャーナリスト・松井宏夫)

