世界一への道は、やはり険しかった。レイズ筒香嘉智外野手(28)は、ダッグアウト最前列で敗戦の瞬間を見届けた。ポストシーズンは通算16打数2安打。ワールドシリーズ(WS)は、すべて代打で3打数無安打と、最後までスタメンに名前を連ねることなく、消化不良のまま、メジャー1年目を終えた。

開幕戦で初アーチを放ち、華々しくデビューした。だが、その後は、持ち前の快音も途切れがちだった。データ上、左腕を得意とする右打者を起用するチーム方針もあり、公式戦では出場機会が不規則だった。本来、左投手を苦にしないどころか、左腕相手に体の開きやタイミングを確認し、調子を上げていくタイプ。本塁打を放っても、翌日はベンチスタートだったことも珍しくない。実戦感覚、感触を維持することすら、簡単ではなかった。

近年のメジャーで主流となった高めの速球勝負にも戸惑った。日本球界でも定評のあった筒香の変化球攻略術は、メジャーでも一流レベルとされた。特に低めへの柔軟な対応力が秀逸とあって、他球団は徹底して内角高めを攻めてきた。日本の投手の場合、たとえ変化球待ちで速球に対応できても、平均で95マイル(約153キロ)を超えるメジャーではファウルで粘るのがやっと。その結果、やや甘めのコースでも打ち損じるケースが増えたことで、「速球は苦手」のデータが蓄積された。

メジャー特有の速いタイミングの投球フォーム、速球への対応は、コロナ禍によるキャンプ中断当時から繰り返してきた。仮に速球だけに的を絞り、タイミングを取ることは可能かもしれない。ただ、より高いレベルを求める筒香は「自分の幹の部分」を変えることだけはしなかった。「自分の間合いで立てない時は、球のスピードも見え方は違う。自分の間合いで立つことが重要だと思います」。求めている打撃は、ヤマ張りや出合い頭の1発ではない。目の前の結果は不本意でも、ブレない幹にこだわったのは、先を見据えた信念からだった。

出場機会が限られた1年のポストシーズンは、快音を響かせることなく幕を閉じた。ただ、ここまで体験した技術的な誤差と、打席に立てなかった悔しさを無駄にするつもりはない。「もちろん、そう思っています」。負のデータが残ったのであれば、書き換えるしかない。来季開幕は4月1日。今後やるべきことに、迷う必要はない。【四竈衛】