“格闘技の神童”那須川天心(28=帝拳)がリベンジに失敗した。昨年11月の同級王座決定戦で判定負けした井上拓真(30=大橋)との10カ月ぶりのリマッチで0-3(116-111が2人、114-113)の判定負け。格闘技人生で初黒星を喫した宿敵に、返り討ちにされた。
短期間での再戦に「結果は同じ」と批判もあった。5月に4階級制覇王者の井岡に完勝して井上株はさらに上昇。那須川も「自分と戦った時より成長しているし、自信がついている」と認めていた。その上で「だからこそひっくり返したい。強いヤツに挑むのが自分の格闘人生」と気合が入っていたが、王者の牙城(がじょう)は想像以上に強固だった。
「やられる覚悟はある」。試合前、独特の表現でリベンジにかける思いを口にした。むろん負けるつもりはない。被弾を恐れずに先に殴り込み、自ら活路を切り開いて決着をつけるという決意表明だった。25日の会見でも「どれだけ勇気を持って前に出られるか」と口にした。崖っぷちの那須川にとって、井上との再戦は人生をかけた“決闘”でもあった。
格闘技無敗の自信、ボクシング7戦全勝の勢いで臨んだ昨年11月の王座決定戦は、井上のキャリアに屈した。「自分の知らない間合いやボクシングをやってきて、迷った。0・何秒を競う世界で一番やってはいけないことだった」。受けて立つスタイルの限界と、ボクシングの型に縛られすぎていたことに気づいた。
この格闘技人生最大の難局でルーツに戻る決断をした。中学生の頃にボクシングの手ほどきを受けた葛西裕一氏にトレーナーを依頼。そこで得意ではなかった接近戦を徹底的に磨き、4月の再起戦では2階級制覇王者エストラダという高すぎるハードルをKOで超えてみせた。本人も成長に確かな手応えを感じていたが、この10カ月で王者も成長していた。
試合1週間前、那須川はこう本音をもらした。「試合に勝ちたいという思いは強いけど、今は自分に勝ちたいという気持ちが一番強い」。過酷で困難な10カ月間、ずっと揺れ動く自分の心と闘い続け、最後まで逃げなかった。それでもベルトを巻くことはできなかった。これが勝負の世界。神童の格闘技人生が正念場を迎えた。【首藤正徳】
■ラウンドVTR■
1回 互いに見合う慎重な立ち上がり。井上が先に右を伸ばしたが、その後は再び試合は硬直状態。那須川は内側から軽いジャブを出して様子をうかがい、終盤には井上が右アッパーを繰り出した。日刊採点は井上の10-9
2回 2回に入ると、両者が手数を増やして試合が動き出す。那須川は終盤に左ストレートを当て、続けてタイミング良く左フックを放つ。井上がスリップした後は距離が近づき、互いに打ち合ってゴングを聞いた。日刊採点は井上9-10
3回 序盤から互いに圧力をかけ、ジャブを使って間合いを探る。井上がスピードのあるボディーストレートを放ち、両者がワンツーを出し合った。前回の対戦と同じく、前半戦は互いの出方を読み合う展開が続いた。日刊採点は井上の10-9
4回 那須川がいきなり飛び込んで主導権を握ろうとするが、井上も冷静に対応する。那須川は素早い動きからの攻撃に加え、大きく振りかぶって打つなど緩急をつけた。終盤には井上の左フックが那須川をかすめ、那須川が体勢を崩した。日刊採点は井上の10-9
5回 5回を前に公開採点が発表され、4回までの採点は井上から見て38-38、40-36、39-37。2者が井上のリードとした。井上は序盤から攻撃を繰り出して流れをつかむ。残り1分にはワンツーからアッパーを当て、優位に進めた。那須川も前に出たが、井上の攻撃を受ける場面が目立った。日刊採点は井上の10-9
6回 6回も井上のペース。那須川はなかなか間合いに入れず、強引にパンチを振る場面が目立つ。井上はクリンチも使って那須川の攻撃をしのいだ。手数では那須川が上回ったものの、決定打を当てられないままゴングを聞いた。日刊採点は井上の10-9
7回 立ち上がりから距離を縮めて打ち合う中、那須川の左ストレートが決まり、井上がダウン。那須川は立ち上がった井上のボディーを攻め、ロープ際に追い込んだ。井上は「来い来い」と挑発しながらカウンターを狙う。那須川は終盤にも左で井上の顔面を捉え、後退させた。日刊採点は井上の8-10
8回 7回にダウンを喫した井上が、果敢に前に出て攻め込む。那須川の打ち終わりを狙ってパンチを繰り出した。那須川もジャブでペースを握ろうとしたが、終盤に井上の右ストレートを被弾。最後は接近戦となった。日刊採点は井上の10-9
9回 8回までの公開採点は井上から見て75-76、77-74、77-74。2者が井上を支持した。井上は立ち上がりから攻め込み、ジャブからボディーにつなげる。那須川も攻撃をかわして応戦。終盤は互いに速い連打を繰り出した。日刊採点は井上の10-9
10回 ポイントで追う那須川は前に出て攻めるが、井上はロープを背負ってもクリンチを使って攻撃をしのぐ。距離ができると、離れ際に右を的確に当てた。那須川は攻め続けたものの、井上が防御とカウンターで上回った。日刊採点は井上の10-9
11回 那須川が攻め込むが、井上は冷静に対応。中盤に左フックを当てると、右アッパー、左と続けて顔面を捉えた。那須川は倒れずに応戦。左フックを当てて圧力をかけ、終盤にはロープ際に追い込んだが、パンチは当てれなかった。日刊採点は井上の10-9
12回 井上は那須川の攻撃を見極めながら対応する。中盤には両者がノーガードで打ち合う場面もあったが、井上は足を使って距離を取った。那須川はボディーアッパーを繰り出すものの、決定打にはつながらない。井上は右眉付近をカット。残り10秒は激しく打ち合い、ゴングを聞いた。日刊採点は井上の10-9

