著名野球人インタビュー「あの時あの言葉」を掲載します。最初は今季から西武ヘッドコーチに就任した平石洋介氏(42)です。2005年に楽天入りして7年間通算37安打の外野手ながら、引退後はコーチを歴任。19年には球団初の生え抜き監督として指揮を執り、退団後もソフトバンク、西武で指導者を続けています。その球歴を振り返り、中学進学から始まった「冒険人生」にまつわるエピソードを紹介します。
大分出身、中学~大阪強豪へ
平石コーチは大分・杵築市で生まれ育った。父功さんは高校野球で活躍し、6歳上の兄光一郎さんも野球少年で、物心つく前からバットとボールがおもちゃだった。幼稚園児になり、野球チームに入ってからは、早起きして1人で壁当てしたり、バットを振った。学年が上がるごとにチームも強くなり、地域では敵無しだった。野球に精通した監督は、功さんと一緒にプレーした時期もあった。
平石コーチ(以下敬称略) あとから考えて、チームに入ってからおやじに何か言われた記憶がなかった。保護者の方には、いろんなことを言う人がいた。だから、大きくなって、姉貴と聞いたんです。
功さんの返事は「チームに預けたのに、俺が何か言う必要があるか?」だった。後に指導者に転じたからこそ理解できた。チームの指導者以外のアドバイスが、まったく別物だったり、選手に沿ったものでなかったら、混乱させる恐れがあることを。プロでもそうなのだから、小学生を迷わぬよう、指導者に任せるべきという考えだった。
卒業が近くなり、思わぬ誘いが届いた。1歳上の先輩の家族と食事していると、先輩の父親が「洋介、こんな田舎のお山の大将でやるぐらいなら、大阪の強いところでやったらどうだ」と切り出した。八尾フレンド(現大阪八尾ボーイズ)。巨人桑田真澄らを輩出した名門だ。
平石 僕もプライドがあったんでしょう。「行きたい」って言ってしまった。すると、テストを受けようってことになったんです。
結果は「ぜひ、来てください」だった。両親は慌てた。「本当に行きたいんか?」「行きたい」のやりとりが続いた。
平石 現実的に考えたら寂しくもなってきて。誰か止めてくれんかな?とも思ったけど、意地も張った。そしたら、おふくろ方の祖父母が一緒に大分から付いてきてくれて、3人で暮らしたんです。僕の冒険の始まりでした。
2人とも野球のことはよく知らず、祖父は胃の全摘出手術後で、祖母も病気の後遺症があった。反対する親戚もいた。それでも「孫のために」の思いは強かった。親代わりとしての責任感から「あいさつや感謝の気持ちを、ちゃんと伝えなさい」と礼儀を重んじた。本人は思春期の真っ盛り。「いちいちうるさいな」と口答えしたことがあったのを、今でも反省している。祖父母との生活は、姉が大阪の短大に進学して一緒に暮らすまで2年間続いた。姉もまた弟の夢を手助けしようと、大阪の学校を選んだのだった。
平石 僕の長女は中3で息子は小学生なんですが、とてもじゃないけど、出せんなあって話をするんです。めっちゃ迷惑もかけました。二重生活ですから、お金もかかったと思います。
野球をする上で、八尾フレンドは十分な環境だった。近大出身の大浦泰弘監督の指導はレベルが高く、練習は高校野球にも負けない内容だった。期待に応えるように主将として全国大会を制し、関西選抜では世界大会で優勝した。中学3年間で最も印象に残った言葉を聞くと、少し考えを巡らせた。
平石 祖父母やチームからもいろんなこと学んだんですけど、1回、同級生のおじいちゃんに怒られたんです。打撃内容が悔しくて、ヘルメットを投げ飛ばしたことがあった。その試合後に『洋介、ヘルメットはお前の頭を守ってくれるもんやぞ。悔しいのは分かるけど、そのヘルメットを粗末に扱うのはどうなんや』。それが一番心にぐさっと来ました。その後の生活に生きてますね。
怒気があったわけでなく、淡々とでもなく、お説教でもなかった。「ものすごく心がこもってました」という問いかけは、他人の子供に物が言いにくい時代に触れた、まごころだった。もともと短気で、間違っていると思えば、年上にも意見を言う。そんな熱血漢が、あらゆる局面で冷静さを失わずに、真っすぐ向き合えるのは、あの場面のあの言葉からだった。
◆平石洋介(ひらいし・ようすけ)1980年(昭55)4月23日、大分県出身。PL学園時代は主将、外野手。高3春夏に甲子園出場、ともに横浜に敗退。同大―トヨタ自動車を経て04年ドラフト7巡目で球団創設1年目の楽天入り。11年に引退するまで122試合172打数37安打、打率2割1分5厘、1本塁打。12年の育成担当を皮切りに、13年から1軍打撃、16年2軍監督、18年1軍ヘッドなどコーチを歴任、同年6月から監督代行。19年1軍監督として前年最下位から3位に。翌20年からソフトバンクの1軍打撃、22年に西武1軍打撃、今季から1軍ヘッドコーチに。身長175㌢。左投げ左打ち。血液型A。

