肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対する治療】

 日本人の肺腺がんの患者さんの40~50%はEGFR遺伝子変異があるといわれています。EGFR遺伝子変異は、肺がんに特異的に認められる遺伝子異常で、腺がん、非喫煙者、女性、若年者、東アジア人に多いといわれています。気管支鏡検査などで採取した肺がんの組織や細胞から遺伝子変異の検査をすることが可能です。

 手術や根治的な放射線治療ができないEGFR遺伝子変異がある患者さんの場合、イレッサ、タルセバ、ジオトリフのいずれかのEGFR阻害薬が1次治療として用いられます。EGFR遺伝子変異がある患者さんには従来の抗がん剤治療よりも、これらのEGFR阻害薬の効果が高いことが分かっています。

 これらの薬は、60~70%程度の患者さんで腫瘍の大きさを劇的に縮小します。しかし、半数の患者さんは1年程度で効果がなくなり、腫瘍が再増大します。中には数年間効果が持続する患者さんもいますが、2年以上効果が持続するのは20~30%程度です。

 この3つの薬では、ジオトリフの効果持続期間が一番長いかもしれませんが、効果にそれほど大きな違いはないと考えられています。これらの薬の副作用としてよく見られるものに皮膚障害、下痢、肝障害があります。

 最も注意が必要な副作用は間質性肺炎で、間質性肺炎を発症すると致死的になる場合が少なくありません。もともと間質性肺炎を合併している患者さんは、間質性肺炎を悪化させる可能性が高くEGFR阻害薬を使用することはお勧めできません。たばこを吸っている患者さんの場合にも間質性肺炎に対する注意が特に必要です。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。