<不整脈(6)>

 不整脈のひとつである「心房細動」の治療は、内科的なカテーテル治療で効果がなかったり、心臓弁膜症の治療と併用したりする場合は、心臓外科手術になります。

 ただ、内科的治療には“身体にやさしい”という点はあるものの、どうしても脳梗塞を防ぐ点から血液をサラサラにする「抗凝固薬」を服用するようになります。患者さんは決してその薬を望んではいません。抗凝固薬には出血しやすいという副作用があるからです。

 そこで注目されているのが、抗凝固薬がいらない“身体にやさしい胸腔(きょうくう)鏡手術”。私も注目しており、この治療を行おうと考えています。開発者の名前から「ウォルフ・大塚法」とネーミングされ、開発者の1人が東京都立多摩総合医療センター(東京都府中市)心臓血管外科の大塚俊哉部長です。この胸腔鏡手術は人工心肺を使うことなく行われます。まず、胸の4カ所に1センチ程度の穴をあけ、そこから心臓を映し出す胸腔鏡を入れ、モニターで画像を見ます。他の穴からは手術器具を挿入して手術を行います。

 ここでの手術の目的は2つ。「左心耳を切除する」ことと「異常な電気の発生を消す」こと。左心耳は左心房から突き出ており、心房細動が起こると左心耳で血流がよどむために血栓ができてしまいます。左心耳は基本的に必要がなく、ここを切除すると血栓のできる心配がなくなり、抗凝固薬から解放されます。だから、左心耳を自動縫合器で切ってしまいます。自動縫合器は、切断すると共に切った場所を縫合しているのです。

 次が心房細動を起こす異常な電気回路を発生しないよう、その場所をアブレーション(心筋焼灼術=しんきんしょうしゃくじゅつ)します。この場合は心臓を切り開かないので、その電位発生場所を心臓の外側から広く焼灼し、胸腔鏡手術は終了です。カテーテル治療ではなく、抗凝固薬不要の胸腔鏡手術は、さらに注目されると思います。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)