前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんの治療法は、前回説明した、がんの進行度を示す分類とともに、「リスク分類」を行ったうえで選択します。リスク分類を行うのは、前立腺がんの病期が同じでも悪性度が違えば、治療後の再発リスクに差が出てくるためです。

代表的なものに「D’Amico(ダミコ)」の分類があります。これは、前回紹介した「TNM分類」と「グリーソンスコア(GS)」、前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSA検査」の結果などから「低リスク」「中リスク」「高リスク」の3段階に分けられます。

TNM分類の「T1c」~「T2a」、GSの「6以下」、PSA値の「10以下」が「低リスク」。がんがまだ小さく、がん細胞の性質もおとなしいと推測されるもの。手術や放射線治療によって完治する可能性が高く、条件によってはすぐに具体的な治療を行わなくていいがんも含まれます。

TNMの「T2b」、GSの「7」、PSAの「10以上20以下」が「中リスク」。病期が進み、がん細胞の性質もやや悪性度が高くなっています。患者さんの状態も含めて検討したうえで、手術療法、放射線療法などの治療が行われますが、再発リスクも少しあるものです。

TNMの「T2c」、GSの「8~10」、PSAの「20以上」が「高リスク」と分類されます。この段階では、がんがかなり大きくなっており、がん細胞の性質が悪く、進行も速いことが推測されるため、直ちに治療を行い、再発した場合は複数の治療法が組み合わせて行われます。

治療法の選択としては、前立腺を摘出する手術療法や、放射線でがん細胞を死滅させる「放射線療法」、ホルモン薬を使用する「内分泌療法」、抗がん薬を使う「化学療法」などがあります。

ただ、手術でもその他の治療でも、治療法にはメリットとデメリットがあることも、知っておかなければなりません。手術療法なら、体にメスを入れることになりますし、術後は勃起障がい(ED)や尿失禁が出るなど、生活の質(QOL)に影響が出ることもあるのです。前立腺がんによって、現在の自分はどんな状態にあるか? 将来的に、命に危険があるのか? 術後に不便になることがあるとすれば、それは何か? 再発の危険性はあるか? など、ライフスタイルを考慮に入れて、医師に治療方針を相談することが、何より大事です。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。