感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

   ◇   ◇   ◇

集団免疫とは、ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持っている際に、免疫を持たない人を保護する効果とされています。多数の人々が免疫を持っている集団では、感染の連鎖が断ち切られ、病気の拡大は収まっていくという考えです。

一般的には、60~70%の人が免疫を持てば感染は自然と収束するとされています。集団の一部で流行を媒介しそうな層が免疫を持てば、他の層に広がりにくいという考え方もあります。インフルエンザワクチンを子どもたちに接種すると、高齢者の罹患(りかん)率・死亡率が減るというような感じです。

SARS-CoV2に対しての免疫獲得の手段は、まだ感染しかありません。若年層は重篤化しないので、感染して免疫獲得すればよいという極端な理解がありました。確かに、猫や豚のコロナウイルスでは弱毒性のコロナにかかっておけば、強毒性のコロナでの死亡率が減るようです。ただし重症化因子がはっきりしていない感染症に自ら罹患する行為は、お勧めできません。

英国やスウェーデンは、集団免疫獲得を試みる対応でした。最終的な有効性は不明ですが、1回の感染ではコロナウイルスの感染阻止免疫力は、あまり高くならないようですので、この試みは厳しいかもしれません。

振り返ってみれば、発生地とされている中国・武漢市では感染者数約10万人で、死者数は4000人弱とされます。大きな犠牲ですが、新型感染症で医療崩壊に陥った状況として見れば、この数値は過去の例では軽度です。北京、上海、広州などの都市においても、もちろんあくまで表に出ている数字だけですが、比較的落ち着いた状況です。韓国、台湾、ベトナム、タイ、そして日本など普段から中国との交流が深い地域は、統計の差はあっても全体的には落ち着いている状況といえます。

BCGワクチンのおかげともいわれていますが、少なくともアジア諸国においては、ある程度の集団免疫はある様子です。逆に言えば、既にこれらの国や地域には、何らかの感染の波が襲った後なのかもしれません。