心筋症とは心筋の変性を伴う進行性の心臓病で、心筋が厚くなる肥大型と部屋が広くなる拡張型があります。動悸(どうき)、息切れや期外収縮がきっかけで見つかることも多いです。進行すると心臓の収縮力が落ちてしまい心不全を引き起こすため命に関わる病気です。心不全は進み方に個人差があります。最近では心不全を進行させないための内服薬の開発が進んでいますが、心不全の悪化より先に危険な不整脈が起きてしまい突然死を引き起こす不整脈原性心筋症という病気があります。
研修医1年目の頃の経験です。大学に進学したばかりの女の子が検診で心室期外収縮が見つかり、精密検査のために入院してきました。診断は拡張型心筋症。心不全の程度は軽く期外収縮が目立つ状態でした。抗不整脈薬が期外収縮を抑えてくれるのか、毎日の期外収縮数を数えていました。幸い、心臓に負担の少ない薬が期外収縮に効いて退院となり大学生活に戻りました。
ところが1年後、めまいで倒れて再度入院。心室からの期外収縮がバラバラ出ており、2連発、3連発もあります。薬が効かなくなりました。ホルター心電図検査では期外収縮が20連発も出る心室頻拍が見つかりました。致死性不整脈と呼ばれるものです。心不全のため息切れや足のむくみもありました。
何とか心室頻拍を抑えるために複数の薬の効果を調べ、心不全を治療しました。幸いにも快方に向かい、危機的状況を脱しました。リラの花が咲く頃に「ようやく大学に戻れます」とうれしそうな顔で退院しました。真っ赤なベレー帽がよく似合っていました。
当時は抗不整脈薬がベストの治療であっても命を奪う不整脈を抑えるのは困難でした。現在ではカテーテルアブレーションで不整脈を抑え、非常時に備えて植え込み型除細動器などの非薬物治療により患者の命を救うことができます。

