今日からの連載は、知ればラグビー通へと1歩前進する「ラグビー用語」を紹介する。シリーズ第1回は「ブレークダウン」。文字面だけでは想像しにくいが、理解できれば、ラグビー観戦が一気に楽しくなるワードだ。日本ラグビー協会A級で、日本人で初めてスーパーラグビーで笛を吹いた久保修平レフェリー(37)にも解説してもらった。

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「ブレークダウンで勝てませんでした」「課題のブレークダウンで勝負できました」。試合後の選手が、最近よく口にする。ルールではない。ある一連の動きの流れをブレークダウンと呼ぶ。その一連の流れについて久保レフェリーは「簡単に言えばタックルとラック」と説明する。

久保 タックルすると選手は倒れる。倒れるとボールを離さないといけない。タックルした選手も離れないといけない。そこで最初のボールの争奪戦が完結する。その次に互いのチームの2人目による、ボールの守り合いと取り合いがラック。ここまでをブレークダウンと呼びます。

この一連の流れは「80分間の1試合で軽く200は超える」という。タックルの可否は一目瞭然だが、タックル後に発生するラック(密集)は一見すると何が起こっているか分かりにくい。しかし互いのチームの考えはシンプル。「どんどん球を出したい攻撃側と、球出しを遅らせたいデイフェンス側の争奪戦です」。

ブレークダウン
ブレークダウン

タックルが成立すると、ボールを持っている選手はボールを離さないといけない。この瞬間にボールの所有権はイーブンになり、地面に置かれたボールを互いのチームの2人目、3人目が取り合う。攻撃側は相手のディフェンスラインがそろう前にボールを出して攻撃したい。防御側は球を取り返したい、あるいはディフェンスラインを作るための時間を稼ぎたいという魂胆がある。

カギは「スピード」。タックル成立後に、いかに速く密集に寄れるかが、勝負の分かれ道だという。数多くの試合で笛を吹いてきた久保レフェリーは、密集への寄りが早い代表的なチームにニュージーランド代表を挙げた。

久保 タックルが決まった後の寄りの速さ、判断がうまい。ただ力強いというわけではなく1人の選手が大きく前進して孤立してしまうシチュエーションでも、それを読んで動いている。見極め、予測、勝負どころが分かっている。

密集の中からボールの球出し役を務める日本代表候補のSH田中史朗も「ブレークダウンの出来が試合の流れを決める。日本代表のジェイミーHCも、ブレークダウンで勝負できるかが最重要だと考えている」と話す。派手さの中に、繊細さや頭脳戦が繰り広げられるブレークダウン。単に「ごちゃごちゃした密集」というのではなく、試合の主導権を握るボール争奪戦という見方ができれば観戦の面白さがより増すはずだ。【佐々木隆史】