2020年7月24日に開幕する東京五輪・パラリンピックまで6年。ビートたけし(67)が、東京五輪をぶった切った。日刊スポーツでは今日23日から開幕までの6年間、大型特集連載企画「6年輪っしょいTOKYO五輪」を毎週水曜日に掲載します。第1回に登場したたけしは、日本を取り巻く国際情勢を踏まえ、国威アピールではなく、アジア一丸の祭典を目指すべきと訴えた。

 1964年(昭39)10月10日、当時高校生のたけしは、東京・足立区から同級生4人とバスを乗り継ぎ、四谷にいた。ラーメン店の少し開いた窓からのぞいたテレビに満員の国立競技場が映っていた。その時、ごう音が響いた。空を見上げて叫んだ。「飛行機だ ! 」。航空自衛隊アクロバット飛行チーム、ブルーインパルスの戦闘機が5色のスモークで大空に5つの輪を描いた。興奮した。

 「切符もないから開会式なんか入れない。でも友達が『行こう』って言うからワル5人組で行ったんだ。四谷あたりで『国立はあっちだ』なんて言ってたら、飛行機が飛んできた。すごかったね」。胸を高鳴らせた日の記憶は今も鮮明だ。あれから50年。平和の祭典が再びやって来る日が近づいている。楽しみな半面、気になることだらけだと言う。

 「最近の五輪は先祖返りしているな。まるでベルリン五輪みたいに国の威力を見せつけるようになっちまっている」。ヒトラーがプロパガンダに利用したとされる36年ベルリン五輪を引き合いに痛烈に批判した。五輪は国家的プロジェクトでもある。日本は今、平和の祭典を成功させようとする中、集団的自衛権の議論も進めている。「それでも(五輪を)やろうとするのは相反しているんじゃねえかな」。韓国や中国と微妙な関係にある中、東京五輪で日本の力を見せつける。そんな考えには否定的だ。昨年春、首相官邸で行われた懇談会で安倍晋三首相に言った。「日本はアジアで孤立している。(アジアから)第2次世界大戦の時の帝国主義みたいなことを言われる」。だからこそ、東京五輪は「アジアの中の東京」を意識すべきだという。「東京五輪って言うけどさ、東京には韓国人も中国人もいるんだぜ。開会式なんかは、彼らも巻き込んだアジア文化のオープニングをやるべきじゃねえかな」。

 世界的な映画監督だけに周囲は開会式の演出を担当するのではと期待する。「話は来てないよ」と言うが、イメージは持っている。「例えば音楽。日本太鼓の横に韓国の太鼓が入ってきたり、歌舞伎のメークも使うけど、それは(中国の)京劇に通じているってわけ。日本は歴史認識を変えろなんて言われるけど、いっそもっと古い歴史を取り入れて、アジア古来のものを巻き込んじまえばいいんだ」。

 開会式の聖火ランナーも歴史と向き合えばいいと言う。32年ロサンゼルス五輪マラソン6位入賞の金恩培さん(享年66)や、36年ベルリン五輪マラソン金メダルの孫基禎さん(享年90)の関係者を候補に挙げた。ともに韓国併合を受けて日本代表として当時マラソンに出場した選手だ。「これなら日本が戦時中を、ある程度反省している雰囲気も出て、これから一緒にやっていこうとなるだろう」。

 国旗も国歌も必要ないという。「何で表彰式で国旗を掲げ、国歌を歌うんだ。全部、国と国の戦いに結びつくじゃん。五輪のテーマソングでも作って、歌えばいいんだ」。五輪はあくまで選手の戦い。国の戦いではないという。国境の意識を薄くする、たけし独特の大胆なアイデアだ。慣例や常識なんてぶち壊す。いつだってそうしてきた男は、国威アピールから離れた五輪こそが、アジア情勢を変え、本物の平和の祭典になると考える。

 東京五輪のたけし流キャッチフレーズは、ずばり「亜細亜一丸」。「おいらの改名宣言みたいだな」と笑いながら色紙に書くと、文字を丸く囲んだ。その色はあの日、空で見た5つの色だった。【三須一紀】

(2014年7月23日付本紙掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。