20年東京五輪は「男女混合」が本格的に実施される最初の大会になる。東京五輪は、新たに男女がいっしょに競技を行う混合種目9種目が加わり、日本のメダル獲得も期待される。特に柔道の混合団体は金メダル候補だ。五輪に先立ち、9月の世界選手権で実施され、日本が初代王者に輝いた。日本代表を率いる、全日本柔道連盟の金野潤強化委員長(50)に現状と強化の課題を聞いた。【取材・構成=峯岸佑樹】


 20年東京五輪柔道最終日の混合団体。日本武道館のセンターポールに日の丸が掲げられる。約1万5000人の観客から割れんばかりの拍手喝采。金野氏はそんな光景を思い描いている。

 金野氏 64年東京五輪で柔道がJUDOへと変わった。(前日の)重量級で勝って混合団体で勝つシミュレーションはしている。64年にかなえられなかった最後の日の丸を掲げて、東京物語のエピローグを完成させるのが私の使命です。

 柔道は64年東京大会で正式競技になり、発祥の地の〝本家〟としてのプレッシャーはすさまじかった。男子軽量級(68キロ以下)の中谷雄英ら3階級は順調に金メダルを獲得したが、最終日の無差別級決勝で神永昭夫がヘーシンク(オランダ)に敗れた。「日本柔道が敗れた」などと批判されたが、外国勢が優勝したことが国際化のきっかけになった。

 混合団体は20年東京五輪に先立ち、9月の世界選手権で初実施。決勝ではブラジルに6―0で圧勝し、個人戦で7階級を制した選手層の厚さを改めて世界へ示した。試合前には円陣を組み、試合後には畳上で男女の選手が記念撮影するなど個人戦では見られないお祭りムードが漂った。


 金野氏 個人戦の結果を受けて悲喜こもごもある中、男女の一体感があった。「結束力が大事」ということを伝えて、次の選手が奮起するような戦い方をしてくれた。控え選手や出場しない階級の選手の応援も大きな力になった。

 代表選手らは7月、都内で男女の垣根を低くするために「チームビルディング」を受けた。選手や指導者は「ニックネーム」を胸元に付け、恥ずかしさを振り払いゲームで交流を深めた。男子66キロ級の阿部一二三は妹の名前の「詩ちゃん」、男子代表の井上康生監督は名前から「やすお」、女子代表の増地克之監督はその容貌から「白鵬」などと付けて呼び合った。柔道は学生時代から体力差があるため男女別の部活で育ち、試合や合宿も別々が多い。学生や社会人では団体戦が盛んだが、男女が1つのチームで戦う形式は日本柔道の伝統にはなかった。


 金野氏 日本選手は海外に比べたら団体戦慣れしているが、大会前にコミュニケーションを図るだけでは一体感は保てない。今後はチームビルディングを定期的に行う予定で、筋トレなどのトレーニングでも男女合同を考えている。

 金野氏は結束力を高め、強化するために(1)個人の強化(2)選手へのマネジメントの課題を挙げた。

 金野氏 団体戦だが試合は個人戦。東京五輪で出場するのは個人戦の(該当階級の)選手であり、より個の力をアップさせて、各階級の層を厚くしないといけない。出場するのは男女3階級の選手で、残り4階級の選手は応援に回る。個人戦の結果を受けた中で「チームジャパン」として応援する環境づくりも重要となる。また、個人戦でけが人が出た場合などは1つ下の階級の選手を使うことになり、もし、そうなった場合、どう戦うのかなどの戦略も大切。選手たちの性格も理解し、いかに本番で存分の力を発揮出来るかということを今から考えないといけない。

 64年東京五輪で成し遂げられなかった最終日の金メダル。日本柔道の威信をかけて、混合団体でリベンジを果たす。


 ★東京五輪に新採用された男女混合種目 国際オリンピック委員会(IOC)が今年6月、臨時理事会で女性の参加を促すため新たに男女混合9種目の実施を決定。種目は柔道混合団体、卓球混合ダブルス、競泳混合400メートルメドレーリレー、陸上混合1600メートルリレー、トライアスロン混合リレー、アーチェリー混合団体、ライフル射撃10メートルエアライフル、ライフル射撃10メートルエアピストル、クレー射撃トラップ。


 ◆柔道男女混合団体 チーム構成は男女3人ずつの計6人。男子が73キロ以下、90キロ以下、90キロ超、女子が57キロ以下、70キロ以下、70キロ超。同じ階級の選手同士が対戦する「点取り戦」で、引き分けはない。勝敗が並んだ場合は一本勝ちを10点、技ありによる優勢勝ちを1点として換算。得点も同じ場合は無作為に選ばれた階級の選手同士が代表戦を行う。試合時間は4分。今夏の世界選手権で初めて実施され、日本が初代王者に輝いた。


 ◆卓球混合ダブルス 男子1人、女子1人のペアでプレーする。ルールはダブルスと同じで、サーブ後のラリーは、ペア交互で打たなければならない。同じ選手が2度続けて打つと、相手の得点になる。35年から始まった全日本選手権では46年大会から、世界選手権では第1回大会の26年から行われている。

<中国の重点強化必至 張本&美宇もペアに>

 6月の世界選手権(ドイツ)では石川佳純、吉村真晴組が金メダルを獲得。五輪種目になったことで、中国が重点強化してくることが予想されるが、東京五輪でも有力なメダル候補になることは間違いない。日本協会も強化に力を入れ始めた。来年1月の全日本選手権(15日開幕、東京体育館)では、6月の世界選手権女子シングルスで日本勢48年ぶりの銅メダルを獲得した平野美宇と、最年少ベスト8に入った張本智和を組ませて、推薦出場させることを決めた。今後も強豪同士のペアを組ませ、世界選手権金メダルペアの石川、吉村組らと競わせていく予定だ。


 ◆競泳混合400メートルメドレーリレー 男女各2人ずつが出場して背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、自由形の順番で各100メートルずつを泳いで順位を決める。誰がどこに出るかは自由で選手をどう配置するかも勝負のかぎを握る。世界選手権では15年カザン大会から実施され、英国が3分41秒71で初代王者に輝いた。日本は17年ブダペスト大会で同種目に初出場して、3分53秒69の予選全体の10位だった。

<日程重複次第で手探り>

 競泳は、現時点で全力投球ができない状況だ。ポイントは五輪本番の競技日程で、何日目に混合400メートルメドレーリレーが入るか。日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは「他種目に挑戦する選手が増えている中で、リレーでベストメンバーを組めるかどうか。優先順位が大切になってくる」と慎重な姿勢だ。昨夏のリオ五輪では萩野が4種目、池江が7種目に出場している。さらに新種目を泳げば、メダルを狙う専門種目に影響が出る可能性がある。なお17年世界選手権ブダペスト大会で日本は10位と同種目の表彰台は簡単ではない。


 ◆アーチェリー男女混合団体 男女1人ずつのペアでリカーブは距離70メートルで4セット(1セット男女2射ずつ)を競い、合計得点で勝敗が決まる。1セット、1エンドの制限時間は2分。11年世界選手権から実施され、韓国や台湾などが強豪。10月の世界選手権ではリカーブで古川高晴、杉本智美ペアが英国に敗れて4位だった。


 ◆射撃 3種目が混合で実施される。ライフル射撃の10メートルエアライフルと10メートルエアピストルは、男女それぞれが制限時間内に異なる標的に向かい、決められた弾数を撃ち、2人の合計点で競う。エアライフルは不安定な姿勢となる立射でのコントロール、エアピストルは集中力の持続と正確な撃発が要求される。横一線に並んだ射台を移動し、前方から飛び出す標的を撃つクレー射撃のトラップも、初めて行われる団体戦が混合になる。


 ◆陸上混合1600メートルリレー 男女各2人で4区間の配置は自由。15、17年と実施された世界ユース選手権は男子のアンカーが多数派だったが、15年優勝の米国、3位カナダは女子がアンカーだった。差がつきやすい女子の底上げ、男女間でのバトンパスなどが勝負のカギを握る。10月28日の日本選手権リレーでは「特別対策種目」として実施され、今後は国体での導入も検討される。


 ◆トライアスロン混合リレー 個人種目に出場する男女各2人の4人でリレーする。スイム300メートル、バイク8キロ、ラン2キロと、距離は個人種目(計51・5キロ)の5分の1と短い。競技時間は70分ほどで、選手には個人種目以上にスプリントの能力が求められる。09年に世界選手権で初めて行われ、14年の仁川アジア大会では日本が快勝。今年7月のアジア選手権でも優勝した。スピーディーな展開が観戦者を引きつけ、テレビ視聴率も期待できる。