湘南の星が、世界へ本格デビューする。セーリング競技のウインドサーフィン種目RSX級で、全日本ジュニア5連覇、14歳でユース五輪7位入賞の実績を持つ新嶋莉奈(18=セブンシーズ)が、今年からシニアに転向。満を持して地元の海で開催される2020年東京オリンピック出場を目指す。津波の危険を知らせる「オレンジフラッグ」の普及に尽力した父光晴さん(59)とともに、鎌倉の海から日本の力を世界に発信する。【取材 首藤正徳】

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 生まれも育ちも鎌倉の海岸である。自宅は海に面したウインドサーフショップ。新嶋はプロでならした父の手ほどきで、4歳にしてボードに乗った。その“庭も同然”の海が、東京五輪の競技会場。「本当にうれしい。ここでずっと練習してきたので、風の基本的な傾向は分かっています。中学の頃から好きな風です」。地の利という追い風も、新嶋の背中を押している。

 今年から本格的にシニアに転向した。日本連盟の特別強化選手に選ばれ、2月はナショナルチームのサイパンとスペインの遠征に参加した。「体力と、風を読んで自分のコースを組み立てていくレース力が圧倒的に足りない」。同種目の日本の東京五輪出場枠は1。ハードルがポンと高くなったことを実感したが、「体力はきっと2年で追いつけると思う。あとはできるだけレースに出て経験を積んでいけば」と、自分への期待は揺らいでいない。


 強みは身長166センチの手足の長い体形。58キロが適性体重といわれるウインドサーフィンの選手として理想型で、小柄な選手とはセールにかける力の量がまるで違う。「小さい選手はいろいろ工夫しなければならないけど、大きくて速い欧米の選手の乗り方をそのまま、まねすることができる」と、新嶋もメリットを意識している。

 小4から全日本ジュニア選手権5連覇。14年ユース五輪(南京)では14歳9カ月の史上最年少出場ながら7位入賞した。それでも真剣に競技に取り組んでいたわけではない。「ウインドサーフショップの娘なので楽しいふりをしていたけど、小学生の頃からいやで仕方なかった。中学に入ってからは勉強との両立が難しくてさらにいやになりました」と打ち明けた。


 最初の転機は慶応女子高の入試面接。「東京オリンピックを目指しています」と宣言した。入学後、自分の発言に責任も感じて、五輪種目のRSX級を始めた。2度目は昨年の海外2レース。小1からのライバルに2連敗を喫した。「それが本当に悔しくて、火が付きました。すごく練習するようになりました」。

 高校では学業優先の学校の方針もあり、練習は週末1回しかできず、大会出場も公欠扱いはなかった。慶大に進学する4月からようやく競技に集中できる。「これからは競技にたくさん時間を使える。伸びると思います。東京もパリ(24年)もロサンゼルス(28年)も目指します。メダルも」。一足飛びで世界に駆け上がる、新嶋はそんな予測不能な力を秘めている。


 ◆セーリング 海面に設置されたブイを決められた順序で回り、ゴールの着順を競う。五輪では1900年パリ大会から実施されている。艇の大きさや形で種目が分かれ、東京五輪では男子5、女子4、男女混合1の合計10種目が実施される。日本では艇長が4・7メートルの470級が盛んで、96年アトランタ五輪で女子の重由美子、木下アリーシア組が銀メダル、04年アテネ五輪で男子の関一人、轟賢二郎組が銅メダルを獲得している。


 ◆RSX級 五輪唯一のウインドサーフィン種目。84年ロサンゼルス大会からウインドサーフィンは正式種目に採用されたが、08年北京大会からボードが一回り以上大きいRSX級に変更された。選手は全長2・86メートル、全幅0・93メートル、重量15・5キロの同一規格のボードを使用。ヨットのように風下から風上へスタートし、風の方向や強さを読みながら、水面に設定されたブイを回ってゴールする。その順位がポイントとなり、数レースの総合ポイントを競う。1レースの時間は20~40分。16年リオデジャネイロ五輪では予選12レースで、上位10人でメダルレースが実施された。


 ◆新嶋莉奈(にいじま・りな)1999年(平11)11月13日、神奈川・鎌倉市生まれ。4歳からウインドサーフィンを始め、全日本ジュニア選手権では横浜国大付属鎌倉小4から5連覇。14年の南京ユース五輪に14歳9カ月の史上最年少で出場して7位入賞。15年のアジア選手権U-17(17歳以下)クラスで優勝。昨年12月の世界ユース選手権は6位。慶応女子高から、今春、慶大に進学する。家族は両親。166センチ、57キロ。セブンシーズ所属。