2019年を迎え、2020年東京五輪・パラリンピックまで1年半となった。14日の「成人の日」に先立ち、20歳で20年東京大会を迎えるアスリートを特集する。柔道女子52キロ級で18年世界選手権金メダルの阿部詩(18=兵庫・夙川学院高)は進化する“大人の柔道”で、男子66キロ級同金メダルで兄一二三(21=日体大)との柔道界史上初の「兄妹同日金メダル」を狙う。


2020東京五輪への思いを語った阿部詩(撮影・河野匠)
2020東京五輪への思いを語った阿部詩(撮影・河野匠)

18歳の世界女王は、1年半後の大舞台での光景を思い浮かべた。20年7月14日に20歳の誕生日を迎え、その12日後に東京・日本武道館で行われる女子52キロ級の試合。観衆1万人超に囲まれた「武道の聖地」で、重圧を感じながら、日本代表としての誇りと自信を胸に戦う姿をイメージした。

 東京五輪があと1年半後なんて信じられない。あっという間。20歳の誕生日を祝ってる時間や余裕もない。悩んだり落ち込んでいる暇もない。それまで、自分の柔道をどこまで高められるかが重要。残りの限られた時間を大切に、金メダルを20歳の誕生日プレゼントにしたい。

昨年はテーマの「進化」を体現し、まさに飛躍の年となった。女子52キロ級は詩のほか、17年世界女王の志々目愛(24)と18年アジア女王の角田夏実(26=ともに了徳寺学園職)との三つどもえの争いが続いていた。詩は9月の世界選手権(アゼルバイジャン)決勝で志々目を内股で下し、初出場初優勝。11月のグランドスラム(GS)大阪大会決勝では過去3戦全敗で苦手とした角田に組み手で粘る“大人の柔道”で延長の末、指導3で勝利した。世界選手権とGS大阪大会を制したことで、全日本柔道連盟の選考基準を満たし、19年世界選手権(8月25日~9月1日、日本武道館)代表に内定した。

 この1年間で正直強くなったと思った。ライバル2人に勝っての代表内定で自信もつき、この階級でやっと1歩抜けたと感じた。精神的にも強くなって、柔道との向き合い方を変えたことが成長につながった。

これ以上、同じ過ちは繰り返さない。GS大阪大会前、これまで「大嫌い」だった負け試合の映像を何度も確認した。暇さえあれば動画サイト「YouTube」で角田に敗れた4月の全日本選抜体重別選手権などの映像を見返した。敗因を探り、大人の柔道の心得となるヒントを得た。

 これまで一瞬のチャンスを狙っていたけど、そこに油断が出た。同じ相手に4回も負けたら話にならない。何かを変えないといけないと思った。前へ前へだけの柔道だけではダメ。相手を見て緩急をつけて、攻める時は攻める。守る時は守る。力に頼りすぎず、考えて駆け引きすることが大事だと分かった。

19年世界選手権代表に早期内定したことで、残り8カ月は気持ちの余裕を持って準備することが出来る。

 この準備期間は大きい。もっと練習を追い込んで、特に組み手と寝技の強化を継続的に行いたい。


2020東京五輪への思いを語った阿部詩(撮影・河野匠)
2020東京五輪への思いを語った阿部詩(撮影・河野匠)

高校生活も残り3カ月となった。高校3年間は合宿や国内外の遠征で多忙を極め、遠足などに1度も参加出来なかった。「女子高生らしい生活は出来なかった」と言うが、2月の北海道への修学旅行は欧州遠征の日程とも重ならないため参加予定という。

 クラスの(号令担当の)会長だったけど、学校にいることが少なかったためレアキャラだった。行事はなかなか参加出来なかったけど、高校では多くの出会いと経験をさせてもらった。修学旅行では、高校生活最後の楽しい思い出を作りたい。

卒業後は、地元の神戸を離れて一二三と同じ日体大に進学する。兄の背中を追うように5歳で柔道を始め、東京五輪は同じ拠点で目指す。実績も着実に兄に近づいてきた詩だが、尊敬する兄についてはこう語る。

 自分がお兄ちゃんに追いつくことはない。周りは昨年の世界選手権で兄妹優勝して「追いついたね」と言うが、自分の中では「追いついてもいないし、追い越してもいない」。強くなれたのもお兄ちゃんがいつも前にいてくれたからだし、いなかったらこうはなっていないと思う。大舞台で必ず勝ち切るお兄ちゃんの強さは一番理解しているつもり。最近、こんなことを考えるようになって、つくづく妹なんだなと思った。

1年半後の自分へ「前を向いて頑張れ!!」と言葉を贈った。実績を積み重ねて、夢から目標へと変わった東京五輪。女子52キロ級と男子66キロ級は、同じ日に実施され、柔道界史上初の「兄妹同日金メダル」の期待が懸かる。

 最近、自分でもここまできたことが「本当に不思議だな」と感じることがあるけど、やってきたことは確か。あとは自分を信じて、目の前のやるべきことだけを見て突き進みたい。前進あるのみ。そして、兄妹で金メダルの目標をつかみ取りたい。

18歳の世界女王は大舞台を見据え、猪突(ちょとつ)猛進で柔道にまい進する覚悟だ。【峯岸佑樹】

◆阿部詩(あべ・うた)2000年(平12)7月14日、兵庫県神戸市生まれ。5歳で柔道を始める。17年世界ジュニア選手権、同GS東京大会優勝。18年GSパリ大会、世界選手権、GS大阪大会制覇。今春から日体大に進学予定。右組み。得意技は袖釣り込み腰と内股。世界ランキング2位。好きな食べ物は白センマイ(ホルモン)。好きなタレントはイモトアヤコ。158センチ。


<20歳で2020年東京五輪を迎えるアスリート>

■サッカー 中村敬斗(G大坂)

三菱養和SCに所属していた17年12月に高校2年ながら飛び級でG大阪とプロ契約した若き逸材。18年シーズンの開幕戦でJリーグデビューを果たすと、11月の第33節長崎戦では初ゴールも記録した。U-15日本代表から各世代別代表にも選出され、17年U-17W杯インド大会にも出場。4得点を挙げるなど、ストライカーとして活躍した。


■サッカー 遠藤純(JFAアカデミー福島)

18年U-20女子W杯フランス大会の優勝メンバーで、同年11月には唯一の00年生まれとしてA代表にも初選出された左利きの若きアタッカー。スピードに乗ったドリブルでサイドを崩し、自ら持ち込んでのシュートや、正確なクロスボールで相手に脅威を与える。18年シーズンは、なでしこリーグの特別指定選手として日テレでもプレーするなど、将来が期待される。


■卓球 平野美宇(日本生命)

16年リオデジャネイロ五輪は落選したが、同年のW杯で大会最年少優勝を果たした。17年はアジア選手権で中国3選手を破り日本人21年ぶりの優勝、世界選手権では3位となり日本人として48年ぶりのメダル獲得となった。18年はシングルスで目立った結果は出なかったが日本代表の馬場美香監督は「20年までには必ず調子を上げてくる」と期待している。


■スケートボード 中村貴咲(大阪学芸高)

世界最高レベルの実力を誇るパーク種目女子の第一人者。16年のXゲームでアジア人として初優勝を果たし、東京五輪の金メダル候補に躍り出た。昨年は序盤のケガで出遅れたものの、世界最高峰VANSシリーズの全米オープンで復活優勝。11月に行われた第1回世界選手権でも四十住さくらに続く2位に入り「東京では世界一になりたい」と話した。


■野球 根尾昂(中日)

大阪桐蔭では投手と遊撃手の「二刀流」で春夏連覇に貢献。ドラフト1位で入団したプロでは遊撃一本で勝負する。「1年目は土台作りで経験を積みたい。社会人、大学、高校の順で、アマチュアとしてトップレベルじゃない」と、18歳ながら自らを冷静に分析。近い将来の目標に関しては「中日の優勝が1番の使命。それ以外はあんまり」とまずはシーズンに集中する考えだ。クレバーな選手で早期のレギュラー定着は確実。20歳で迎える東京五輪では、代表候補に名乗りを上げる可能性は十分だ。


■競泳 池江璃花子(ルネサンス)

東京五輪のヒロイン候補。16年リオデジャネイロ五輪に続く2度目の五輪で初のメダルを目指す。昨夏のジャカルタ・アジア大会では日本勢最多の6冠を獲得して、女子初の大会MVPを受賞。本命の100メートルバタフライでの金メダルを最大の目標に掲げる。100メートル、200メートルの自由形でも表彰台の可能性があり、複数メダル獲得も十分、視野に入ってくる。


■バスケットボール 奥山里々嘉(八雲学園高)

身長180センチと長い手足を武器に、昨年の全国高校選手権で1試合最多62点を挙げた。ジャカルタ・アジア大会では、東京五輪追加種目となる3人制日本代表として銅メダルを獲得。高校卒業後は実業団で競技を続け、20年東京五輪に向けて「3人制でも5人制でも、選んでいただいたところで頑張りたい。代表のユニホームを着て活躍したい」と意気込んでいる。