日本の「おもてなし」を世界中の外国人観光客に見てほしかった。20日に政府、東京都、大会組織委員会など5者による代表者協議で海外在住の一般観客の受け入れを断念することが決まった。コロナ禍の中、選手を迎え入れ、安全に競技、大会を運営するための苦渋の判断だったと察する。

1つの未知なるウイルスが情勢を一変させた。滝川クリステルさんのスピーチで「お・も・て・な・し」が話題となった。東京オリンピック(五輪)開催決定に列島が沸いた。長身な外国人向けなのか、ハイルーフのタクシー車両が一気に普及した。一昨年の秋頃だったと記憶している。深夜業務を終えて帰宅する際に乗車させてもらった運転手は「会社で英語の勉強会も始まりました。英語だけじゃなくて、中国語、韓国語、スペイン語も少しは話せるようになりたいけど、まずは英語からですね。もう60歳を超えてますから。なかなか覚えられるかどうか。でも楽しみですよね。頑張りますよ」。

時短営業が続く都内の飲食店の関係者も同じだった。港区の和食居酒屋の店主は「英語のメニューもつくらないといけないですね。英語が話せるスタッフを採用することも考えないと。もちろん、僕も勉強しますよ。外国人の人たちにも日本の料理を楽しんでもらいたいですね」と話していた。そんな“期待”は、たった1つのウイルスによって奪われた。

今となれば外国人客を受け入れないことが「おもてなし」になるのかもしれない。度重なる自粛要請が日常を奪っていく。一方で我慢、忍耐は日本文化の「おもてなし」の一端ではないだろうか。関東地方でソメイヨシノが満開に咲く26日にプロ野球がファンとともに開幕した。観客上限が設定され、応援歌、歓声は心の中だけにとどめる。自由が制限されるスタイルでもグラウンドの選手とスタンドのファンとの間に絆がある。ファンの存在がプレーに躍動感を与え、球場全体の高揚感を生む。

新しい観戦スタイルを構築していくこともウイルス終息につながる。後ろ向きのことばかりでは前には進めない。未来へとつながる「おもてなし」を今夏の東京で世界中に披露したい。【プロ野球担当 為田聡史】