このコラムを書くように言われたのが1月。関東は2度目の緊急事態宣言中だった。「3カ月たてば、少しは盛り上がっているだろう」と思っていたが、状況は変わっていないようだ。

久しぶりにある友だちからLINEが来た。「本当にオリンピックは開催されるの?」。スポーツが大好きで東京オリンピック(五輪)を楽しみにしている彼女は、母親の介護と、幼い子どもを育てるシングルマザー。水泳、陸上、柔道、マイナースポーツまで詳しく、いつも楽しそうに話をする。記者が以前担当していたバドミントンも大好きで、取材後に会うと「桃田選手どうなった? ナガマツペア強かったよね。感動した」などと笑顔で話していた。そんな彼女もコロナ禍で仕事がなくなり、今はスポーツ観戦どころではなく、生きていくのに必死だという。

近所のとある居酒屋のマスターは、スポーツ新聞を毎日読んでいて、記者にいろんな質問を投げかけてくる。お客は減っているが、国や自治体の指示を守り、経費を削減してやりくりしている。「お客さんを見ていて(五輪が)盛り上がっていないように感じる。昨年からコロナの話ばかり。スポーツの話をしている時はみんな楽しそうだった。頑張ってたくさん記事を書いてよ」と頼まれた。

我々記者は感染予防をしながら取材をし、Webサイトや紙面でスポーツの話題を届けている。レイアウトや印刷、多くの人が関わり、読者のもとへ。毎日配達を請け負うある新聞販売店主は、新聞離れで経営が苦しい中、「スポーツが少しずつ始まってきた。スポーツ新聞は写真も大きく見出しも華やか。五輪が開催されれば盛り上がって、もっと読んでもらえると思う」と期待しながら、雨の日も風の日も雪の日も365日休むことなく奔走する。

彼らはみな東京五輪でのアスリートの活躍を待ち望む。コロナで笑顔や夢、希望を奪われたが、それを取り戻す力がアスリートにはある。1年延期で引退した選手もいるが、競泳・池江璃花子のように切符を手にし、多くの人に感動を与えた選手もいる。震災10年の年に重なった。選手が口にする「スポーツで日本を元気にしたい」という思いを大舞台で表現し、勇気づけて欲しい。母国開催の五輪はほとんどの人が一生に1度。大げさかもしれないが、偉大なパワーを持つ選手の言葉やパフォーマンスが、見えない敵と闘う多くの人の人生を救うことができると思っている。【バトル担当 松熊洋介】