日本がメダル量産を期待されるのが競歩だ。歩いてタイムを競うものでしょ? と簡単に思われがちですが、歩き方にもルールが決められ、実は過酷な競技。強い精神力、高い技術が求められる。「教えて○○さん」最終回は東京オリンピック(五輪)女子20キロ競歩代表の岡田久美子(29=ビックカメラ)にルール、奥深さなどを聞きました。【取材・構成=上田悠太】

※今回の取材でのシューズは五輪で使うカラーではありません。

 
 

-岡田先生お願いします。え、えっと…走らなければ、何でもいいわけではないんですよね(小声)。

岡田 競歩には大きく分けて2つの違反があります。「ロス・オブ・コンタクト」と「ベントニー」です。3回の歩型違反を受けると、「ペナルティーゾーン」で一定時間の待機(20キロは2分、50キロは5分)をしなければいけません。4回目の違反になると失格です。

-まずロス・オブ…から教えてください。

岡田 ロス・オブ・コンタクトです。歩く時に両足が地面から離れてはいけないというルールです。ずっと両足がベタっとついていないといけないのではなく、どっちかの足が地面に接していれば大丈夫です。

競歩の反則「ロス・オブ・コンタクト」を実演する岡田久美子
競歩の反則「ロス・オブ・コンタクト」を実演する岡田久美子

-それで歩き続けるって…難しすぎないですか?

岡田 スローモーションで見てしまうと、みんな浮いています(笑い)。でも、試合では審判の目で判断します。つまり、目視で地面に接しているように見せる技術が、すごく大事なんです。いかに技術を磨き、浮いていないように見せるか。そこには精神力、忍耐力も詰まっています。

-その技術とは?

岡田 振り出す足は小石を転がすようなイメージです。大きなボールを蹴るようにすると、勢いで浮いてしまう。足で地面を蹴るというより、股関節で地面をなでる感覚。接地はかかとからですが、ソフトに前へ重心移動する感じです。

-こんな選手もいるのかと驚いたのはありますか?

岡田 靴が目立つ色だと浮いているように見られがちなので、グレーとか黒とか道路に近い色にしたりとか。でも、それはよっぽど悪い選手。日本人はしないです。海外勢では今もいるかもしれません。

-シューズで言えば、マラソンだと厚底が主流に。競歩は使えないんですか?

岡田 かかとから接地するので、分厚すぎると、そこでブレーキがかかってしまい、ちょっと不向きかなと思います。あと靴の中にプレートが入っていると、はね過ぎてしまい、それこそ「ロス・オブ・コンタクト」になってしまいます。

-もう1つの違反「ベントニー」とは何ですか?

岡田 接地する時に膝が曲がってはいけないというルールです。足が地面と垂直になった時、膝は伸びていないといけません。

-なぜ膝が伸びていないといけないのですか?

岡田 膝が曲がってから伸ばすという力が、走りと同じだからです。屈伸を使っているということで。

競歩の反則「ベント・ニー」を実演する岡田久美子(撮影・鈴木みどり)
競歩の反則「ベント・ニー」を実演する岡田久美子(撮影・鈴木みどり)

-接地時に膝が曲がらないようにするには?

岡田 つま先をしっかり上げて、かかとから接地します。そして振り子のような意識を持ちます。

-「競歩選手あるある」とかありますか?

岡田 すねの発達がすごいんです。つま先を上げて、常にかかとから接地するので、どうしてもすねが発達します。あと正座ができない選手も結構多いんですよ。つま先を甲の方に反らせる動きが染みついているので、足首を足裏方向に伸ばすことが難しくなってしまうんです。どうしても正座が必要そうな場面は椅子を用意してもらう人もいるようです。私に限っては、走り方も競歩っぽいと言われます。走っている時も頭の上下動が全然なくて。あと歩く速度は普通だと思うのですけど、ストライドが大きいのか、雨の日に大きい傘をさしていても、つま先がぬれます。

-競歩の魅力は?

岡田 テレビの前でも、ルール、目視で足を浮いていないように見える技術などを意識して、見てもらえると面白くなるかな。最後の最後で失格となる可能性もあるので、そこは残酷でもあり、醍醐味(だいごみ)です。

-東京五輪の目標を教えてください

岡田 入賞は確実に入れる力がついていると思います。競歩は最後の最後まで何があるか分からない。最後の最後まで諦めずに3位以内を目指して、調整をしていきます。

練習を行う競歩の岡田久美子(撮影・鈴木みどり)
練習を行う競歩の岡田久美子(撮影・鈴木みどり)

◆岡田久美子(おかだ・くみこ)1991年(平3)10月17日、埼玉県上尾市出身。熊谷女子高で09年の全国高校総体3000メートル競歩を連覇。立大では日本学生対校選手権1万メートル競歩を4連覇。昨年まで日本選手権は6連覇。世界選手権は15年北京25位、17年ロンドン18位、19年ドーハ6位。16年リオ五輪は16位。いずれも20キロ競歩で、19年には1時間27分41秒の日本新を樹立。158センチ。

東京五輪の競歩代表
東京五輪の競歩代表

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)