先日、4大陸選手権を観に台北まで行ってきました。スケートの観戦はというと、近頃、取材という名目でお邪魔する機会が多いです。この4大陸選手権もそうでした。

 台湾で開催されたこの試合、僕にとって2年ぶりの海外観戦です。日本からは羽生選手を除く全てのオリンピックメンバーがエントリーしており、大舞台直前のこの時期に、それぞれどのような演技を見せてくれるのかと熱く注目をしておりました。

 結果的に女子は表彰台独占、男子では宇野選手が準優勝、田中選手もパーソナルベスト更新とそれぞれに収穫のあった大会になったのではないでしょうか。カップル競技でも、村元・リード組がアジア初のチャンピオンシップ表彰台など、快挙が見られました。

 印象に残った選手を挙げると、やはり宇野選手になります。フリー、演技後半のジャンプのクオリティーが素晴らしかったです。シーズン途中には安定感を欠いた要素もあったのですが、このオリンピック直前に良い形にもってきたなという感想です。

 とはいえ、成功したと思われた4回転ループでアンダーローテーション(0・25回転以内の回転不足)をとられる部分がありました。この判定こそが、わずかに優勝を逃す因子にもなったわけですが、しかし、全くもって問題はなかったと僕には感じられました。宇野選手にはこの判定にナーバスにならず、これまで通り、オリンピックでも自信をもって跳んでもらいたいですね。

 ただ、反対の意味で気になった点もあります。それはプレゼンテーションの評価です。あれだけミスなく演技をまとめたにも関わらず、演技構成点は思ったほどに伸びていません。

 実は今回、ジャンプ自体はまとめたものの、ジャンプを降りるにつれて慎重さが増していった印象がありました。音楽との調和、トゥーランドットの表現という観点でも、ミスの多かった以前の試合の方が感じられたかもしれません。

 僕は宇野選手の表現において、どこか波動を感じるような、圧のある重い動きがとても好きです。4大陸選手権ではそれが影を潜めてしまっていたでしょうか。宇野選手は元来、体から音楽を発するような素晴らしい表現者でありますが、このときは音楽を追いかけていたように感じてしまいました。

 それでも、総合的にはすごく良い印象です。ここ最近不安のあった4回転トーループを良い形で全て成功させられたのは、なにより自信になったと思います。GPファイナルや全日本選手権、年が明けて上り調子であることは確かでしょう。このオリンピックシーズン、多くの試合に立ち向かう中で、それぞれ違った課題が見つかったように見受けられましたが、この4大陸選手権で、不安要素のほとんどが取り除かれた気がします。

 メダルや優勝、そんな期待もありますが、彼はまだ若い選手です。初出場、なにより自分のために滑ってくれれば十分なのではないでしょうか。

 女子に関しては宮原選手です。いろいろな驚きがありましたね。ショートプログラムを1位で折り返しながら、フリーでは珍しい失敗でまさかの3位。記者会見中、思わずこぼれたという表現が相応しい涙も、その場に大きな衝撃を与えていました。

 ただ、こんな涙も含めて、宮原選手の姿は一段と美しくなったなと思うのです。

 これまでは、ミスパーフェクトなどという呼び名で形容され、精密機械のように寸分の狂いもない演技をする選手という印象がありました。かつて、コーチの指示でガッツポーズをしたというエピソードもありましたが、どこか本音を感じきれない部分があったのも事実です。

 だけど、今シーズンの全日本、あの喜びの涙とガッツポーズ、そこにひとりの女性としての強さと弱さを感じたような気がしました。

 昨シーズンからのけがによるリハビリでは心が折れたとも聞きました。だからこそ、というわけではありませんが、いまの宮原選手の演技には本当に心がこもっています。一表現者として、4年に1度の最高の舞台をかみ締めて、感動を伝えるようなパフォーマンスを見せてほしい、そんな期待を僕は抱いています。

 オリンピック、それはコンペティションではなくゲームだといいます。競技会ではない、いわば4年に1度の地球規模での祭典です。もちろん、競技結果も大切。しかしながらそれ以上に、国を代表して厳しい選考を勝ち抜いてきた選手たちの姿を見られる素晴らしい舞台でもあるのです。だからこそ、それぞれの選手がどんな風にここまでの道のりを歩んできたのか、そんなことを少しだけ想像したら、きっと世界中のどんな選手の演技をも楽しめるような気がします。

 最後に、羽生結弦選手についてです。

 彼は、オリンピック王者になりながらも結果に満足することなく自分を高め続けてきた素晴らしいアスリートです。

 しかしながら、彼のあり方に疑問を呈す記者は意外にも少なくありません。その最たる事件として挙げられたのが、あの4回転ルッツでのけがです。あんなジャンプに挑戦する必要はなかった、やらなくても勝てるのに、そうプレスルームでもささやかれました。

 だけど、僕はそんな羽生選手も好き。もし、ルッツに挑戦する彼でなかったら、きっと今この2018年に彼の演技を見られることはなかったでしょう。誰かに勝つ、しかも圧倒的に勝つ、そんな息が詰まるほどのハングリー精神、それこそがこの男子スケート界をものすごいスピードで進化させた、彼らしさそのものです。

 今回、状況からいって、彼が心から願うパフォーマンスができない危惧はあります。まだまだ無理は許されない状況かもしれません。

 だけど、4年間競技を高め続けてきた素晴らしきチャンピオンです。ジャンプの難易度や点数、そんなもの以上に、4年の時を経て、また最高のリンクに立っている彼の背中にあたたかな拍手が注がれることを願います。【川崎孝之】