フィギュアスケート団体男子ショートプログラム(SP)で、宇野昌磨(20=トヨタ自動車)が103・25点を記録しトップに立った。4回転フリップのミスから巻き返し、自己ベストまで1・62点。2位ビチェンコ(イスラエル)に14・76点差をつけ、今季のGPファイナル覇者で4位のチェン(米国)らを圧倒した。金メダルの期待がかかる16日からの個人戦へ、視界は良好。ペアSPの須崎海羽、木原龍一組(ともに木下グループ)は8位で、日本は3位発進となった。

 スピンのスピードを上げながら、徐々に大きくなる拍手を聞いた。宇野は右手を上げる決めポーズにたどり着き、頬を緩めた。開きすぎた足が転倒を予感させ「早く(曲が)止まって欲しかった」。日本のトップバッターは冷静な顔を持ち合わせ「特別な感情は湧き出てこなかったです。最後まで自分の演技ができた」と初めての五輪を感じた。

 出番前に舞台裏で見たのは、チェンら実力者がミスを連発する映像だった。普段は自分に集中するが、ここは五輪。「緊張感があるのかな?」「朝が早いからかな?」とあれこれ考え「自分も失敗するのかな?」という予感に至った。冒頭の4回転フリップは左手を氷につくミス。だが転倒をこらえ「思ったより体は動いている」と思考を180度変えた。「練習でやってきたことを信じて何も考えずやる」。課題だった4回転-3回転の連続トーループなど残り2つのジャンプで加点を導き、演技構成点も5項目全てで10点満点の9点台を刻んだ。

 今から約17年前、3歳の頃に名古屋スポーツセンター(大須スケートリンク)で初めて氷に乗った。リンク脇の壁に触れず、トン、トン、スーッと滑っては、ニコリと笑う。その姿を見て「何!? あの子!」と驚いた同センターの堤孝弘さん(41)は「1歳半ぐらいで歩き出したとして、その2年後ぐらいには氷。衝撃的でした」と当時を振り返る。そんな特技は5歳で競技の道へとシフトした。

 「かわいいね。スケートやりなよ!」

 当時中学生の浅田真央さんにそう声を掛けられ、フィギュアにのめり込んだ。練習で毎日のように流した涙は、堤さんにも「できなくて叱られて泣くんじゃなくて、自分の失敗に悔しくて泣いていた」と強い印象を残した。「表現、つなぎの所作が他の選手より圧倒的にきれい」と今も背中を追う浅田さんが立った舞台は、宇野の努力を証明した。

 それでも団体をゴールにはしない。「団体戦と個人戦は全くの別物。僕も1歩間違えればたくさんミスをする。今回はたまたま僕がうまくいっただけです」。異例の午前10時開始で強いられた苦手の早起きも5時起床で乗り越え、他が悩まされた“魔物”も振り切った。その貴重な経験と謙虚さを武器とし、世界の頂を手繰り寄せる。【松本航】