フィギュアスケート男子で66年ぶりの2連覇を狙う羽生結弦(23=ANA)が今日16日、ショートプログラム(SP)で右足首故障から約4カ月ぶりに実戦復帰する。

 羽生のSPは、ショパンのピアノ曲「バラード第1番」。「心地よい」と語るこのプログラムは通算3季目。3度世界記録を出した、まさに五輪勝負曲。「大好きな曲で滑ることができる」とこの日も喜んだ。

 羽生はなぜこの曲と相性がいいのか。ショパン研究家の加藤一郎国立音大大学院准教授(61)は「羽生選手の優雅さ、流麗さ、気品、洗練された美意識はショパンのピアノ音楽と共通する」と語る。「冒頭に謎めいた前奏が置かれ、その後、大人のワルツのようなテーマが始まります。それが流れるパッセージ(つなぎの旋律)へと変化していく。曲全体は詩的な旋律にあふれ、壮大なドラマが展開するところも。最後は2拍子で躍動し、音階が華やかに奏でられて曲を閉じます」。美しさと激しさは、羽生のスケートと呼応する。

 弾き手は名手クリスチャン・ツィマーマン。「彼は技術を強調せず、常に音楽の本質と結びつき、詩やドラマを自然に生み出しています」。妻が日本人で親日家としても知られる人物。東日本大震災を東京で経験し、チャリティーコンサートも度々行っている。仙台で被災した羽生と曲を通じて“共演”するのも何かの縁だろう。「羽生選手は、技術と演技が常に調和している。それも、ショパン音楽、ツィマーマンの演奏と通じるように感じます」。【取材・構成=高場泉穂】