右足首故障からの復帰戦で羽生結弦(23=ANA)が完璧な演技で首位発進した。2本の4回転を含む3つのジャンプを成功。自身が持つ世界最高にあと1・04点と迫る111・68点で、66年ぶりの五輪連覇へ王手をかけた。

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 正直なところ、羽生があそこまで完璧な演技をできるとは思っていなかった。韓国入り後の練習では体のキレはいいなと感じていたが、長いブランク明けの試合は苦手な印象で、いつもの期間ほど調整も詰めていなかったと思う。一般的に期間が空くと「できるかな」という気持ちが湧く。そうするとジャンプのタイミングがずれたり、細い軸を作るための体の締め方が緩んだりする。

 その不安をどう打ち消すか。前日はハイテンションで、金メダル第1号の重圧を聞かれると「誰が取ろうが、僕も取ります」と答えた。勝負脳という考え方があり、「~しないように」より「~したい」「~する」という方が力を発揮できる説がある。自己暗示ではないが、不安を打ち消すためにあえて強気で通したのかもしれない。そこも五輪へのマネジメントだったのではないか。

 フリーへ、フェルナンデスとの4点差は難しい点差だ。ジャンプは転倒でGOE(出来栄え点)がマイナス3点され、さらに減点1も加えマイナス4点になる。5点あれば転倒しても逆転の可能性は下がるが、演技構成の選択が問われる。難しいジャンプで転倒したら…。ただ、高難度の4回転ループを入れてくると思う。五輪で世界最高得点を出すことを目標にしているとみるからだ。4年前のソチ五輪フリーでは転倒もあり、本人もSP後に「リベンジしたい」と口にした。安全にサルコー、トーループでまとめることもできるが、しないだろう。彼は異次元のところで戦っているようにもみえる。

 体力面の低下を懸念する声はあるが、心配はない。ジャンプなしのフリーの通し練習などでもスタミナは維持できる。GPシリーズ開始前に「圧倒的に勝ちたい」と言っていた。世界最高得点。言葉どおり、また、「羽生結弦」を超えていくのではないか。

 宇野はすごく耐えることが多い演技だった。初舞台で苦手な朝という逆境をうまく抑え込んだ。田中の巻き返しも含めて、フリーの日本男子は楽しみだ。(バンクーバー五輪代表、11年世界選手権銀メダリスト)