女子ハーフパイプでソチ五輪銅メダリストの小野塚彩那(29=石打丸山ク)は、82・20点の5位だった。昨年12月のW杯で脳振とうを起こして恐怖心と闘いながら滑り、2大会連続メダルを逃した。昨年の世界選手権は頂点に立ったが、3回転など高難度の技を繰り出す海外勢に屈した。キャシー・シャープ(カナダ)が95・80点で初優勝した。

 スタート前、小野塚は初めての感情に支配されていた。「怖い」。昨年12月のW杯で転倒し、脳振とうで病院に搬送された恐怖が残っていた。「ちょっと悔やまれます」。難易度の低い技でも空中技の高さを磨き、世界と渡り合ってきたが、82・20点を出した3回目も最高は2・3メートル。高難度の技を出す上位陣に、4メートル台の高さを見せつけられた。

 母ゆかりさん(49)の教育方針は「文武両道は無理」。家で勉強すると「学校でしてきなさい」と怒られた。そろばん塾に行きたいとお願いした時は「どっちかスキーと選びなさい」と言われた。だから人生をささげた。2歳でスキー板を履くと、叔父が営む民宿「勝田屋」裏にあるスキー場で朝から晩まで滑る。家族が忙しいと、勝田屋でアルバイトしている大人を座って出待ちし、スキー場に連れて行ってもらった。楽しくて仕方ないはずなのに…この日は怖かった。

 11年、ソチ五輪から新種目に採用されることが決まり、アルペンスキーから転向。母に「五輪に行く」と決意表明したが「応援に?」と真顔で返されるほど、当時は世界で戦えていなかった。最初のW杯には後援会に集まった資金を元に自費参加したが、36人中35位。その後は土木工事やトラクターの運転もして、海外遠征した。強い覚悟で練習を積み、ソチ五輪銅、昨年の世界選手権金まで強くなった。2大会連続のメダルこそ逃したが、日本勢最高の5位で意地を見せた。

 今後の去就は「休憩してから考えます」とした。取材が終わると、張り詰めていた糸が切れたかのように涙があふれた。【上田悠太】