4月の全日本選手権覇者で19歳の橋本大輝(順大)が合計259・530点で初優勝し、東京五輪の団体総合メンバーに決まった。全日本の得点を持ち点に争われ、2位の萱和磨(24)も初代表に決定。橋本は、16年リオデジャネイロ五輪後に急成長し、一気に日本のエースの座に駆け上がった。種目別に専念する内村航平(32)の後継者として、日本を団体2連覇に導き、自らも個人総合で世界一に挑む。個人枠で五輪出場を目指す内村は鉄棒でトップの15・333点をマークし、4度目の五輪へ前進した。

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「無理!」。4種目目、跳馬でロイター板を踏み切り、手を跳躍台に付いた瞬間、橋本は思った。予定したのは最高難度「ヨネクラ」。横向きに着手し、かかえ込み宙返りをする間に3回転半ひねる大技。世界での成功者は数人で、個人総合の選手が跳ぶのも驚異だが、非凡さはこの日の判断でさらに際立った。「着地をまとめよう」と、ひねりを半回転落とした「ロペス」に切り替えた。

「練習ではずっとやっていた。急きょ変えても失敗するような感じではない」。サラッと振り返るが、男子の水鳥強化本部長は「ありえない。理解を超える感覚を習得している。修正能力、判断能力は相当すごい」と驚く。演技途中での変化。それは内村ら超一流にしか許されない領域だ。

着地をぴたりと決めて、判断は吉と出た。続く平行棒では着地が大きく乱れたが、最終の鉄棒では「弱気になれば負ける」と2位との大きな点差にも構成を落とさない。演技を終えると、観客席におじぎ。「見てくれたお客さんに、体操という競技を見に来てくれてありがとうと」。その姿は、日本体操界の新たな看板を予感させた。

「夢のまた夢」。5年前、内村が率いるリオの戦いを見た。全中で最下位になった中学3年の時で、個人で2連覇、団体金のキングの姿にただ憧れた。名門・市船橋高で、「人生が180度変わった」。次々に技を習得し、高3で世界選手権代表に。「考えられない5年間」と歩みを見返す。

周囲を質問攻めにする。それが向上の源だった。ただ、「オーラが違う」と内村にはいつまでも話しかけられなかった。4月の全日本、予選で7位と沈んだ直後、内村から「決勝、切り替えれば大丈夫だから」と励まされた。そして、大逆転優勝。今大会前には「日本の中心となってやっていかないと。経験を伝えていければさらに強くなる」と言及もされた。

すでに個人総合での金メダル候補だが、五輪までにさらに強くなる環境は整う。「内村さんのように一番頼りになる存在になりたい。最強ニッポンを作り上げたい」。その中心には橋本がいる。【阿部健吾】

 

☆橋本大輝(はしもと・だいき)

◆生まれ 2001年(平13)8月7日、千葉県成田市生まれ。3人兄弟の末っ子で、長男拓弥さん、次男健吾さんが通っていた「佐原ジュニア体操クラブ」で6歳で競技を始める。

◆戦績 市船橋高で18年高校総体個人総合優勝など。19年世界選手権では白井健三に続く史上2人目の高校生代表で団体銅メダルに貢献。

◆1本 ここぞの集中力は中学まで通った佐原ジュニアで。ケガ防止用にクッションが詰まるピットがなく、常に緊張感を伴った。いまも「僕はピットで1本通ったら次は絶対に陸(ピットなし)で通す」。

◆無限君 中学まで世代別代表経験なし。高校入学後に急成長。市船橋高の大竹監督は「体力は『無限君』。1回の練習で何度も試技できる体力、やれるまで粘れる精神力に目を見張った」。高3時の技構成の90%は2年間で習得した。

◆目標 あこがれは16年リオ五輪団体総合金メダルメンバーの田中佑典で「小4で初めてテレビで見てきれいだと」。

◆得意種目、サイズ あん馬、跳馬、鉄棒。164センチ、54キロ