【河辺愛菜〈中〉】北京オリンピック代表発表の日の喜びと戸惑いと…
日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の思いに迫る「氷現者」をお届けしています。
元日から始まったシリーズ第23弾では、10月に節目の二十歳となる河辺愛菜(19=中京大)が登場しています。
3回連載の第2回では関西に拠点を移して成長する日々、2022年北京五輪(オリンピック)へと導いてくれたジャンプとの物語をお届けします。(敬称略)
フィギュア
毎日跳んで、跳んで、跳んで…
河辺をトップ選手へと引き上げてくれた、1本のジャンプがある。
「『アクセルは跳びたい!』と思っていました」
結果的に五輪出場へと大きく飛躍する2021~22年シーズン。競技会に対するモチベーションは、この1つの目標に凝縮されていた。
2018年、中学2年生となる春。
「その時ジャンプが全然跳べないようになってしまっていて…。『行きたい』という思いがありました」
思い悩んでいた当時13歳の手紙を受け取ったのは、新コーチとなる浜田美栄だった。拠点変更が決まると、父を愛知に残し、母、7歳下の弟とともに大阪へと引っ越した。
浜田はトリプルアクセル(3回転半)の指導に定評があった。
2年前の2016年に当時14歳の紀平梨花が女子7人目の成功者となり、紀平に誘われて練習を始めた22歳の細田采花が練習で着氷。新たな拠点となる関西大学たかつきアイスアリーナのリンクには、そんな土壌が育まれていた。
とはいえ、新天地での再出発は簡単な道のりではなかった。新たな跳び方でジャンプの土台作りから始め、体に染み付くまでには1年ほどを要した。
拠点変更から半年後の11月。愛知・日本ガイシアリーナで行われた西日本選手権は、ショートプログラム(SP)で40・38点にとどまった。
28位。全日本ジュニア選手権はおろか、フリーにも進めなかった。
「西のショート落ちは結構(精神的に)きました…」
次の目標に据えたのは、翌2019年2月の全国中学校大会。SP6位で最終組に入ったものの、フリー14位で総合11位。浮き沈みが激しかった。
「ルッツトーがなかなか入らず…。先生の指導についていくのに必死で、そこからは『モチベーションが…』とは言っていられませんでした。毎日跳んで、跳んで、跳んで…。あず(田中梓沙)たちと『やるしかない!』という気持ちで跳んでいました」
結果が出ないもどかしさから吹っ切れ、気持ちが切り替わったのは5月だった。
「コロラド合宿から、トリプルアクセルを本格的にやるようになったんです」
体をつり上げる補助器具のハーネスを使い、感覚を少しつかんだ。11月にKOSE新横浜スケートセンターで行われた全日本ジュニア選手権はSP1位。フリーでは冒頭でトリプルアクセルを初成功させ、初めて頂点に立った。
1年前に予選会の西日本選手権ですらフリーに進めなかった中学3年生は、1年間で劇的な進化を遂げていた。
「ショートは(川畑)和愛ちゃんがすごくいい点数(63・55点)を出して、その中で1位(64・95点)だったことは、すごくうれしかったです。フリーは結果よりも、アクセルを跳べて、演技自体がうれしかったのを覚えています」
意識が変わった瞬間だった。
「そこからちゃんと『上を目指していきたい』と思うようになりました」
2020年に入るとユース五輪で4位、世界ジュニア選手権は11位。飛躍のシーズンを終えると、フィギュア界にも新型コロナウイルスの波が押し寄せた。
年の瀬の全日本選手権は6位と弾みをつけ、ついに北京五輪シーズンがやってきた。
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松本航Wataru Matsumoto
大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。
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