「プロゴルファーのコーチ」というのが職業として定着してどのくらい経つだろうか。
2016年1月に米ティーチング殿堂入りを果たしたマイク・アダムスはデビッド・レッドベターが最初にPGAツアー会場に足を運び、成功を収めたことでゴルフインストラクターの地位向上に貢献したと語った。ニック・ファルドやアーニー・エルスをメジャーチャンピオンに導いたレッドベターの活躍こそが、プロゴルフツアーにおける「プロゴルファーのコーチ」のはじまりだ。
そのレッドベターはまだ現役バリバリでツアー会場に姿を見せ、トッププロのティーチングを行なっている。それはツアーにおける「プロゴルファーのコーチ」というシーンが生まれてからの年月の浅さと、今日までの急速な普及を意味している。
そんな誕生の地アメリカで拡大、発展を続ける、ゴルフインストラクターたちの実態をいくつもの取材からまとめてみた。
●華やかに見えて結構“ブラック”な労働環境
トップクラスのゴルフインストラクターたちは通常、ツアー会場で何人かのプロを掛け持ちでティーチングをしている。契約選手とともにツアーを転戦するのが常だ。
4日間競技の場合は初日は木曜日だが、選手たちは早ければ月曜日から会場で練習ラウンドを行なうため、月曜日から一緒に会場入りする。日本では練習日の練習場や練習ラウンドでスィングのチェックを行ない、本戦に帯同をしない場合もあるが、PGAツアーの場合はほとんど本戦まで“ベッタリ”付き添うことが多い。
過去にタイガー・ウッズを指導し、現在はジャスティン・ローズなどを教えるショーン・フォーリーはラウンド中の契約選手のショットをくまなくチェックしている。
「今のはショットに入る前のアライメントに問題があった」
「もう少し風を計算に入れるべきだ」
全英オープンが行われたロイヤルトルーンGCの予選ラウンドでショーン・フォーリーはこんなことを1人でつぶやきながら、ジャスティン・ローズのプレーをチェックしていた。
30~40代の若いコーチだけでなく、大御所のベテランコーチであってもこういったスタイルを貫く。
●ランキング上位は60代のベテラン揃い
アメリカでは毎年「GOLF DIGEST誌」がその年のゴルフインストラクターのランキングを発表している。メディアやインストラクターからの投票でランキングを決めるのだが、その上位は60代のベテランゴルフインストラクターでほとんど独占される。
■2015-16年シーズンのランキング
1位 ブッチ・ハーモン(ダスティン・ジョンソン)
2位 チャック・クック(ジェイソン・ダフナー)
3位 ジム・マクリーン(レクシー・トンプソン)
4位 デビッド・レッドベター(リディア・コ)
5位 マイク・ベンダー(ザック・ジョンソン)
※()内は主な契約選手
上位に大御所が多いのは、ベテランに気を使いランキング自体が有名無実化した、馴れ合いの結果ではない。上位のインストラクターでも先述のように契約選手たちに寄り添い、最新技術や最新の理論を取り入れ、それを自身の経験と融合させた上で指導に取り入れている。
デビッド・レッドベターは60歳を超えてから新たなスイング理論を打ち出し、チャック・クックはバイオメカニクス(生体力学)などの勉強会にも参加し、大学教授や若手インストラクターと討論する。60歳になっても現状に満足せず学び続け、新たな取り組みを行うインストラクターたちは老け込むどころか、若々しくやる気に満ち溢れ、尊敬の念を持たざるを得ない存在だ。
そういった彼らのティーチングに掛ける熱意がゴルフインストラクターとしての評価を上げていっているのである。ちなみに40歳以下のインストラクターのランキングもあり、40歳以下のキャリアの浅いインストラクターはベテランインストラクターとの勝負の土俵にさえ上がっていない。ゴルフティーチングの世界では10年程度のキャリアでは評価されるような質の高いレッスンができるものではないということを物語っている。
●超一流なら日給100万円も
ゴルフインストラクターの報酬は契約選手の獲得賞金によって変動するパターンが多い。だいたい獲得賞金の5%が相場と言われている。それ以外にも彼らは忙しい合間を縫って、自分たちのアカデミーを立ち上げたり、レッスン書を執筆したりして活動を広げている。
先述のコーチランキングで上位に入っているインストラクターでもアマチュアの指導をするインストラクターもいて、中には1日拘束をするのに100万円以上かかる場合もある。
スケジュールも多忙を極める。以前、年の初めにブッチ・ハーモンのスケジュールを確認した時には、「1時間確保できるのは10月まで1日も無い」と言われたこともある。
●世界一のツアーの技術力はゴルフインストラクターが支える
すでに評価の高いベテランインストラクターたちがそのような姿勢を見せるため、ランキング下位の若いゴルフインストラクターたちも必死に勉強し、その結果新たな指導法などが生まれ、プロの技術が向上していく。正のスパイラルだ。
われわれがしばし鳥肌を立てながら感動する世界最高のプレーは、こういった人たちの力がなければ生まれることはないだろう。
日本でもこうした好循環が生まれることで全体のレベルが向上すれば、世界レベルのプレーを身近で見ることができるかもしれない。
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/
(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

