PGAツアーはプレーオフとライダーカップが終わると、間髪空けずに新シーズンが始まる。2016-2017シーズンの最終戦となるザ・ツアーチャンピオンシップの翌々週からはすでに次のシーズンが始まっていることになる。12月初旬から国内開幕戦4月までの間、長いオフシーズンになる日本のツアーとは大きく異なる。

●大本命、DJの不在のシーズン

 シーズンオフがなく、いつでもトッププレーヤーのゴルフを見られる環境にあるアメリカ人は幸せだ。逆にトップランクの選手は一年中ほとんど休みがないとも言え、その中で出場試合を絞りながら休息を取ったり、コンディションやギアの調整を行わなくてはならない。そして大きな大会に自分の調子のピークが来るように調整をするのだ。ランキングの上位選手たちはこのあたりの能力が非常に高い。

マスターズ練習日8番ホールで豪快なドライバーショットを放つダスティン・ジョンソン
マスターズ練習日8番ホールで豪快なドライバーショットを放つダスティン・ジョンソン

 例えば世界ランク1位のダスティン・ジョンソン。昨シーズン、ジョンソンはその照準をマスターズに合わせていた。2月後半のジェネシスオープンから、出場した3試合でいずれも優勝。マスターズの練習日には同組のブルックス・ケプカを40ヤード置き去りにするビッグドライブを放つなど調整はほぼ完璧な状態だった。しかしマスターズ開幕前日の夕方に階段から転落。初日の朝、会場に姿を見せ練習場でスイングしたものの、やむなく棄権を選択した。その後、全米オープンで予選落ちを喫するなど、7月頃にかけて「調子の底」がやってくる。しかしシーズン終盤にかけて見事に復調し、プレーオフ初戦のザ・ノーザントラストで優勝を遂げた。

 マスターズ直前でのけががなければ、間違いなくジョンソンを中心としたシーズンになっていたに違いない。

●調子の波は半年周期?

 メジャーを制し年間王者を狙うのであれば、ジョンソンのように調子の波をコントロールする必要がある。

 昨シーズン5勝を挙げて飛躍の年になったジャスティン・トーマス。それまでフィールドの薄いマレーシアで開催されるCIMBクラシックでわずか1勝を挙げただけに過ぎなかった24歳は、シーズン序盤からアクセル全開だった。開幕から5戦3勝。同時期に調子を上げていた松山英樹と何度も首位争いを繰り広げては勝ちを積み重ねた。しかしメジャー初戦のマスターズに向けて調子を維持する事ができなかった。そしてシーズン序盤は絶好調だった松山も、同じように調子を落としていく。

ジャスティン・トーマスのショット
ジャスティン・トーマスのショット

 だがトーマスはジョンソンと同じくシーズン終盤にかけて復調し、全米プロを制してメジャーチャンピオンに。さらにはプレーオフでも1勝を挙げ年間王者のタイトルを手にする。

 こうしてみると調子の波はだいたい半年弱くらいの周期で上下していることが分かる。トーマスは今シーズンも序盤から好調を維持しているが、この波をメジャーに合わせられるかが、ジョンソンの対抗馬になりうるかどうかのカギになりそうだ。

●名物解説者が語る松山の凄み

 トーマスほどのジャンプアップにはならなかったが、松山にとっても飛躍の年になった。

 米ツアー参戦当初からそのプレーを間近で見てきたレックス倉本に、松山の成長を分析してもらった。

 「アイアンショットの精度の高さは、ツアー随一のレベルです。アイアンショットの精度が高い選手は何人もいますが、松山はその精度の高いショットを繰り出す回数が圧倒的に多い。この部分が松山のスコアメイクの根幹となっていると感じます」

 ショットの精度に関しては松山自身、妥協を許さない姿勢を貫いている。コースではわずかのズレであってもフィニッシュで手を放して悔しがる。またラウンド後の囲み取材でも記者から「ピンに絡むショットがいくつかあったが」という問いに対して、「全然近くないですよ」と首をかしげながら答える。松山にとってピンに絡むとはタップインの距離につけることを言うのかもしれない。こういった光景は日常茶飯事だ。そういった精度に対するたゆまぬ向上心が、強さの要因となっているのだ。

 レックス倉本が”世界一のアイアンショット”に加え、着実に成長しているというのがドライバーだ。

 「もともと飛ぶ選手ではあったが、さらに距離を伸ばしてきている印象です。これまで続けてきたフィジカルトレーニングの成果が、スイングに反映されてきているのでしょう。飛ばし屋のブルックス・ケプカなどとくらべても全く遜色がないように感じます」

 パワーとテクニックを兼ね備えた松山。今シーズン、コンディションの調整を会得することができれば、1段も2段強くなった姿がメジャーの舞台で見られるに違いない。

筆者(右)のレッスン施設を訪ねてきたレックス倉本氏
筆者(右)のレッスン施設を訪ねてきたレックス倉本氏

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)