馬券発売されたケンタッキーダービーの陰に隠れてしまいましたが、先週末には欧州クラシックレースの幕開けとなるG1英2000ギニー(芝直線1600メートル)と、牝馬によるG1英1000ギニー(芝直線1600メートル)が、英国のニューマーケット競馬場で開催されました。

2つのレースの結果を振り返っておきましょう。


【英2000ギニー】

欧州クラシックレースの幕開けとなる第211回のG1英2000ギニーは、5月4日(土曜)に11頭によって争われました。

1番人気は前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬で、これがシーズン初戦となるシティオブトロイ(牡3、A・オブライエン厩舎、父ジャスティファイ)。6月の英ダービーの前売りでも断然の1番人気に推されるスーパースターは単勝1・67倍の圧倒的支持を集め、興味の焦点はシティオブトロイのレースぶりに集まりました。

しかし、レースは波乱の結末となりました。人気のシティオブトロイは残り800メートルでライアン・ムーア騎手のむちが鳴ってからもなぜか伸びず、1度も先頭に立つことなく後退。スタンドから遠い馬場の七分目に進路をとったノータブルスピーチ(牡3、C・アップルビー厩舎、父ドバウィ)が鮮やかに抜け出して優勝。2着にG1ジャンリュックラガルデール賞優勝のロサリオン、さらに1馬身4分の3差の3着に前哨戦のG1クレイヴンS(ニューマーケット、芝直線1600メートル)を制したハーテム(牡3、R・ハノン厩舎、父フェニックスオブスペイン)の順に入線。大本命シティーオブトロイは先頭から16馬身4分の3も遅れた9着でゴールにたどり着きました。良馬場の勝ちタイムは1分37秒21でした。


◆英2000ギニー<5月4日、ニューマーケット、芝直線1600メートル、良、11頭>


優勝 ノータブルスピーチ(W・ビュイック騎手/C・アップルビー厩舎)1分37秒21

2着 ロサリオン 1馬身2分の1

3着 ハーテム 1馬身4分の3

単勝17・0倍の5番人気タイで出走したノータブルスピーチは、ゴドルフィンの生産所有馬で、ゴドルフィンお抱えのチャーリー・アップルビー調教師の管理馬。血統は父がドバウィ、母はG3・UAEオークス(メイダン、ダート1900メートル)で2着したスウィフトローズ。4代母のチェロキーローズ(父ダンシングブレーヴ)はG1ーリスドゲスト賞(ドーヴィル、芝1300メートル)やG1スプリントカップ(ヘイドックパーク競馬場、芝1200メートル)を制した名スプリンターでした。

ノータブルスピーチは異色のキャリアの持ち主で、デビューからの3戦はすべてケンプトン競馬場のオールウエザー1600メートル戦。3戦とも1番人気に応える楽勝で芝のキャリアがないままにクラシックに挑みました。芝未経験馬の英2000ギニー制覇は、これが史上初です。

人気を裏切ったシティーオブトロイを管理するエイダン・オブライエン調教師は昨年も本命のオーギュストロダンが12着に敗れて、その後の英ダービーで巻き返しに成功していますが、ブックメーカー各社はシティーオブトロイの負け方に疑問を投げかけて、6月1日(土曜)のG1英ダービー(芝2420メートル、エプソムダウンズ)の前売りオッズを変更。それまで断然の1番人気だったシティーオブトロイは6・0倍から9・0倍の2番人気に後退、代わって4月26日(金曜)のG3クラシックトライアルS(芝2000メートル、サンダウン)を完勝した“ゴドルフィン”のアラビアンクラウン(牡3、C・アップルビー厩舎、父ドバウィ)を4・5倍から5・0倍の1番人気に引き上げています。



【英1000ギニー】

英2000ギニーの翌日の5月5日(日曜)に行われた第211回のG1英1000ギニー(ニューマーケット、芝直線1600)は16頭によって争われました。

昨年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたオペラシンガー(牝3、A・オブライエン厩舎、父ジャスティファイ)は調整遅れを理由にここを回避。代わっG1モイグレアスタッドS(カラ、芝1400メートル)に優勝したフォーレンエンジェル(牝3、K・バーク厩舎、父トゥーダーンホット)が4・33倍の1番人気となりました。

レースは緩みのないペースで前半の800メートルを通過。先頭からしんがり追走のエルマルカまで8、9馬身の間隔で進みました。勝負は最後までもつれ、ゴール手前100メートルで先頭に立ったラマチュエラをスタンド側から脚を伸ばしたポルタフォーチュナと、エルマルカが追い打ち。ゴール寸前に外から襲いかかったエルマルカが内の2頭をかわして優勝。首差でG1チェヴァリーパークS優勝のポルタフォーチュナ、さらに短頭差でG1モルニ賞で2着ラマチュエラの順でゴールに飛び込みました。人気のフォーレンエンジェルは8着。良馬場の勝ちタイムは1分37秒05です。


◆英1000ギニー<5月5日、ニューマーケット、芝直線1600メートル、16頭>


優勝 エルマルカ(S・デ・ソウサ騎手/R。ヴァリアン厩舎)1分37秒05 

2着 ポルトフォーチュナ 首

3着 ラマチュエル 短頭


勝ったエルマルカはゴドルフィンの生産馬で馬主はシェイク・モハメド殿下の実弟のシェイク・アーメド・アル・マクトゥーム殿下。ロジャー・ヴァリアン厩舎から昨年11月にデビューし、サウスウェル競馬場のオールウエザー1400メートルを差しきって優勝。2戦目となった4月のG3ドバイ・デューティーフリーS(ニューベリー、芝1400メートル)で3着に敗れ、ここは単勝29・0倍の10番人気(タイ)でした。

血統は父がNHKマイルC優勝馬で種牡馬になったシュネルマイスターなどを送るキングマン、母は2011年の英3歳牝馬チャンピオンで、G1のオペラ賞やフラワーボウル招待ステークスを制したナーレイン。ドバイターフなど3カ国でG1を制した半兄のベンバトル(父ドバウィ)は現在、新冠のビッグレッドファームで種牡馬供用されています。

英国で3度リーディングを獲得し、その後に移籍した香港で競馬の公正に関わるルールに抵触、昨年5月から10カ月の騎乗停止処分を受けていたシルベストル・デ・ソウサ騎手はこの3月から心機一転、英国で騎乗を再開したばかりでした。

(ターフライター奥野庸介)

※競走成績などは2024年5月9日現在