LPGAメディフィール選手権で、元世界ランク1位のリディア・コ(ニュージーランド)が2016年のマラソンクラシック以来となる1年10カ月ぶりの復活優勝を遂げた。

 21歳と同い年(学年はコが1つ上)で、同じアジア系と共通点が多いミンジー・リー(オーストラリア)をプレーオフ1ホール目で破っての勝利だった。最終ホール、あわやチップインイーグルかというバーディーで追いついた後、プレーオフの2打目で230ヤードを、ピンそば1メートルにつけるまでのプレーは圧巻だった。「こんな選手が勝ててなかったなんてうそだ!」と世界中の視聴者が思ったに違いない。

 そして次に思ったのは、彼女をデビュー以来支えていた、デビッド・レッドベターのことだった。


●若き天才の基礎作り


 今回の復活は、デビッド・レッドベターとのティーチング契約を解除し、キャディーや契約クラブメーカーまで変えるという大なたをふるったが勝てず、さらにもう1度コーチを変えるという、試行錯誤をした結果の優勝だった。


レッドベター氏に師事していたころのリディア・コ
レッドベター氏に師事していたころのリディア・コ

 現在はテッド・オーというコーチを就けているコだが、最初のコーチであるレッドベターとのタッグは2013年~2016年の約3年に及ぶものだった。

 プロ入り前から注目を集め「天才」と呼ばれたコ。選手のためと思えば、関係性が崩れる事も厭わず、しっかりと自らの主張を口にするレッドベター。史上最年少で世界ランク1位に上りつめ、10代でメジャーを制覇するなどデビュー後の快進撃は、普通のプロと普通のコーチではないからこそ乗り越え獲得できた軌跡だったと思う。

 「私が大事にしているのは『腕と体のシンクロ(一体感を出す動き)』だ」と常々レッドベターは語っている。復活優勝したコはレッドベターに師事していたときとスイング軌道こそ変わっていたものの、腕と体の一体感の高いスイングをみせていた。


●一貫して訴える「一体感」の重要性


 齢65になるレッドベターだが、選手へのコーチングはいまだに熱心に行っている。

 「今、教えている選手は15人くらいでしょうか。歳をとってきたのでスローダウンはしている」と言うが、その活躍ぶりからは衰えは全く感じられない。

 「長い時間はかかったけれど、昨年はティーチャーオブザイヤーを受賞することができた。(教え子の)ダニエル・カンがメジャー(KPMG女子PGA選手権)で勝ったのも、とても良いニュースだった。」


ダニエル・カン
ダニエル・カン

 カン(米国)や前出のコをはじめ、近年ではアジア人の選手のコーチングを行う事も多いレッドベター。中国に自らの名前を冠したアカデミーを開くなど、アジア人へのレッスンを得意としている。

 「ダニエル・カンは、バックスイングが大きかったので小さくするような指導をしています。大きなバックスイングを行う事、トップを深くする事は正確性を損なう動きになりがちです」

 トップが深くなる事で、切り返し以降の腕と体の同調性が崩れ、振り遅れの要因になる。これは、ドライバーを持った際のアマチュアにも共通して言える事だ。

 「こうした動きはカンだけでなく、多くのアジア人プレーヤーに見られます。欧米の選手に比べ体格が小さく飛距離で劣るため、どうしてもスイングアークを大きくして飛距離を出そうと考えます。ですが大事なのはボールのコントロールと正確性です。体と腕をシンクロさせて再現性を高めることが重要なのです」

 再現性を高くするレッドベター流のスイングは、スコアに波のあるアマチュアにも効果的だ。

 レッドベターが提唱する『Aスイング』は、特にカットスライスに悩むアマチュアにトライしてみる価値があると思う。


デビッド・レッドベター氏
デビッド・レッドベター氏

◇Aスイングの紹介記事は下記の通り。

PGA最小「58」のスイングがスライサーを使う


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)