欧米ではゴルフティーチングが確立する以前、ゴルフが上手な人がゴルフを教えていた。ボビー・ジョーンズやベン・ホーガンといったゴルフ界の偉人は、メジャー大会を何度も制する一流の選手であるとともに、彼ら自身のスイングノウハウを語ることで大きな影響を与えた。


ゴルフだけでなく、トークも一級品だったボブ・トスキ(右)。人を引き付ける魅力を持っていた
ゴルフだけでなく、トークも一級品だったボブ・トスキ(右)。人を引き付ける魅力を持っていた

ティーチングプロの元祖と呼ばれるボブ・トスキもツアー賞金王となった後、一線を退きゴルフスクールを主宰した。彼は話もうまく、軽妙なレッスンで瞬く間にスターインストラクターとなったが、選手としての輝かしい戦歴がものを言ったのは間違いない。


■ゴルフがうまい人から、専門知識がある人へ


しかし、1980年代後半にデビッド・レッドベターが登場することにより、ゴルフティーチングは劇的な変化を迎える。選手としてのキャリアがなくとも、理論に裏打ちされたアドバイスで選手を支え、一流の域にまで育て上げるコーチが誕生したのだ。

レッドベターの出現により、ゴルフティーチングは「誰が言うか」から「何を言うか」にシフトした。それにより、ゴルフティーチングは学べば教えることができる「職業」となった。


ゴルフティーチングに変革を起こしたデビッド・レッドベター
ゴルフティーチングに変革を起こしたデビッド・レッドベター

2016年のティーチャー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ゴルフティーチング殿堂入りしているマイク・アダムスは「レッドベターがゴルフティーチングをビジネスとして成り立たせてくれた」と称賛している。


■学問の導入がゴルフティーチングを高度化させた


1996年、タイガー・ウッズがPGAツアーにパワーゲームを持ち込んだ。それまでは、正確なアプローチやパッティングの技術があれば、飛距離で劣っていてもカバーできた。しかし、ウッズのようなパワーを持つアスリートによって圧倒的な飛距離の差をつけられると、テクニックではカバーできなくなった。それにより、ゴルフティーチングはより一層の進化を余儀なくされた。

ゴルフボールを遠くに飛ばす技術は、球をまっすぐ飛ばす技術より遅れていた。それまでのツアー競技では飛距離よりも方向性を重視していたこともあり、飛距離を出すノウハウは飛距離自慢の選手が秘訣(ひけつ)を語る程度しかなかったため、素質や身体能力という、先天的な能力によって決まるものだった。

しかし、ゴルフティーチング界は人体の仕組みや力学といった「学問」の領域から知識を導入することで、後天的に飛距離を伸ばす方法を探り始めた。


インストラクター向けにバイオメカニクスを指導するヤン・フー・クォン教授
インストラクター向けにバイオメカニクスを指導するヤン・フー・クォン教授

欧米では約10年前から飛距離を伸ばすために、ゴルフティーチングの分野にバイオメカニクスが取り入れられた。地面反力などの目に見えない「力」を有効活用することで、多くのPGAツアー選手が飛距離を伸ばしている。

PGAツアーでは2013年は平均飛距離300ヤードで13位だったのが、2018年では61位タイとなり300ヤードヒッターが4倍以上となっている。これは道具やフィットネスの進化もあるが、多くのコーチがバイオメカニクスを学び、ティーチングに取り入れたことも影響している。

このようにしてゴルフティーチングに関わるものは、ゴルフ以外の知識も求められるようになり、ゴルフティーチングは学問となった。


■球を打つことと教えることは別物


ツアープロは華麗なプレーを見せるのが仕事であり、ゴルフスイングの知識を教えることが仕事ではない。ツアープロは自分がうまくなるノウハウは持っているが、そのノウハウは他の人に当てはまるかはわからない。スコアメークや考え方など参考にする部分はあるだろうが、その人が培ってきた「経験」だけでスイング技術を教えることができる時代ではない。


モリナリは30代半ばで地面反力を使って20ヤードの飛距離アップを実現した
モリナリは30代半ばで地面反力を使って20ヤードの飛距離アップを実現した

世界で活躍するコーチのなかには、ツアープロとしての経験を持っていない人もいる。しかし、彼らは多くのツアープロに信頼され、アドバイスを送っている。ゴルファーとしての腕前よりも、学術的なバックグラウンドのある知識を持ち、的確なアドバイスを行うことができる人物が教える資格を持つ。「球を打つこと」と「教えること」は似ているようで全く異なるのだ。

これは裏を返せば、ゴルフの実績が皆無のアマチュアでも、専門知識を得ることができれば教えることができるということでもある。ただ、勘違いしてほしくないのは、無料の動画サイトで情報収集した程度の知識では、全く役に立たないということだ。ゴルフの実績がない分を補って余りあるほどの知識と経験を持たなければ信用されることはない。


教わる側のアマチュアは、誰に教わるかを厳しく精査しなければならない。自分のゴルフ人生をショートカットさせるのも、遠回りさせるのも自分のコーチ選び次第だ。安いからとか、近いからという理由で選べば、それなりの結果しか得られない。そのコーチが持っている知識や経験こそが自分のレベルを引き上げてくれるという確信を持たなければ、信じることも続けることもできない。

待っていても運命のコーチは現れない。自ら良いコーチを探す努力を惜しまず、アンテナを張り巡らせることが望む結果を手に入れるために欠かせない。(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)


◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/