どんな世界でも、時代の流れに遅れずに第一線で働き続けようと思えば、常に学ぶことは欠かせない。それは、プロスポーツ選手でも、会社勤めの人でも変わらないだろう。ゴルフティーチングに携わる者にとっても同じことだ。


■米国で盛んなティーチングのためのセミナー


アマチュアの腰の回転量をチェックするマイク・アダムス
アマチュアの腰の回転量をチェックするマイク・アダムス

私はこれまで数多くのセミナーに参加して、ティーチングやコーチングに関する最新の研究や理論について学んできた。時には中国やタイなどのアジ化にも足を運んだが、ほとんどの勉強会は米国で開催されたものだった。やはり米国はスイング研究の分野が進んでいて、最先端の理論を学ぶには米国に行くしかない。

米国には知識をリスペクトする文化があり、消費者は良い知識を得るための投資を惜しまない。だから、セミナーなど教育ビジネスも盛んで、有益な知識を得る機会が数多くある。ゴルフにおいても、コーチはもちろん、一般のアマチュアゴルファーでも知識に対して対価を支払う文化が根付いている。今回は、そんな米国のティーチング教育の実情を紹介しよう。


■朝から夕方まで講義漬けの勉強会


米国で開かれるコーチを対象としたセミナーは内容が濃いものが多い。通常、午前8時頃からランチ休憩をはさんで17時までみっちり行うスタイルが多い。スライドなどを使用した座学を中心とした講義が行われるのだが、ほとんどの場合1日では終わらず、2日から3日間行われる。ゴルフィングマシンという古典のティーチングメソッドを学んだ際は、8日間×9時間の72時間に及ぶプログラムを受けた。プログラムの8割が座学で、残りの2割は練習場で実技を行う内容だったが、日々の講義終了後に毎日3時間はかかる宿題を出してきたのには閉口した。


座学でスイングデータについて語るマイク・アダムス
座学でスイングデータについて語るマイク・アダムス

費用は日本円で1回20万から30万と高額だが、著名なコーチが講義に立つことも多く、レベルも高い。セミナーが終わると修了証や資格証などがもらえるのだが、これは受講証明書のようなものだと考えればいいだろう。

日本人の感覚から言えば、「ちょっと高い」と感じるかもしれないが、内容を考えれば決して高いとはいえないと思う。講師が今まで膨大な時間をかけて研究してきた内容を、短期間で学ぶことができるのならむしろ安いものだ。

ちなみに私が参加したセミナーで最も習得するのに時間がかかったのが、米国のトップ・コーチ、マイク・アダムスとEAティーシュラーが提唱するバイオスイングダイナミクスだった。バイオスイングダイナミクスとは、身長や腕の長さ、筋力などをもとに1人1人に合ったスイングを導き出すための理論なのだが、内容が非常に高度で難しい。2016年に米国フロリダ州オーランドで1日8時間×3日間のセミナーを受けた後、翌年もう一度オーランドで3日間のセミナーを受講しないと修了しなかった。


マイク・アダムスの指導を受ける筆者
マイク・アダムスの指導を受ける筆者

ただ、修了証をもらったからといって、すぐに理論を使えるようになるかは別だ。私はニュージャージー州に住むマイク・アダムスの元を訪れ、5日ほど滞在して彼がアマチュアにどのようにティーチングするのかを学ばせてもらった。アシスタントとしてティーチング現場で学びつつ、空き時間にはアダムスの家でスイング理論について直接教わった。そこまで行うことで、バイオスイングダイナミクス理論の使いこなし方を本当に理解することができた。余談だが、その後アジア各国でバイオスイングダイナミクスの資格が2、3日の講義で発行されたと聞いた時には驚いた。


ゴルフィングマシンのジョー・ダニエルズの指導を受ける筆者
ゴルフィングマシンのジョー・ダニエルズの指導を受ける筆者

数多くのセミナーに参加してきたが、資格を認定してもらったり修了証をもらったりすることを目的にするべきではないと思う。大事なのは何を学べるかということであって、その自分が学んだ知識を、いかにクライアントに還元するかが最も大切なことだ。すし店でいえば、お客さんに喜んでもらうために新鮮なネタを仕入れるようなものだろう。私自身は希少で絶品のネタを仕入れるためには米国への「遠洋漁業」も厭わないと思っている。

おそらく、今後も米国を中心にさらに研究が進み、新たな事実が明らかになっていくに違いない。常に新しいものを学び、本当に必要なものを提供してクライアントに喜んでもらいたいと思っている。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/