渋野日向子(22=サントリー)は、やっぱり何かを持っていると思ってしまう。今年最後の試合となった全米女子オープンで、まさか優勝争いを演じるとは予想もしていなかった。第2日、第3日と首位を走り、最終日は、逆転を許したものの、4位でフィニッシュ。第1日から最後まで、ワクワク、ドキドキさせられたのは今年初めてだった。

全英女子オープンで、日本人として42年ぶりにメジャーを制した19年。プロ1年目で国内ツアーでも4勝を挙げ賞金ランクも2位と、間違いなく渋野の年だった。そして、新型コロナウイルス感染症に翻弄(ほんろう)された20年も、終わってみたら主役は渋野だったのではないか。6月の開幕戦から始まった不調。全英、そして米ツアーでどん底を経験し、帰国してからのV字回復は、全米女子オープンで完全復活の一歩手前まで戻ってきた。

日本中が渋野のジョットコースターのような浮き沈みに注目し、最後は日本人初のメジャー2勝目へ夢を膨らませた。全米女子での渋野のプレーは、それほどの勢いと堅実さがあった。スマイリング・シンデレラは、スマイリング・アサシン「笑顔の暗殺者」と呼び名を変えられ、米ツアー選手からも、その存在をはっきりと認められた。

最終日に見せた悔し涙も、世界トップレベルの中でしっかり優勝争いができた証しだ。何が足りないのか、これから自分がやるべきことを心に刻んで、また来年にメジャーと戦えばいい。プロ2年目で、これだけの経験を積めたことは大きい。渋野のキャリアの中では、大きな財産になることだろう。

コロナ禍の影響で、変則の統合シーズンとなった21年の日程が発表された。3月4日開幕のダイキン・オーキッド・レディース(沖縄)を皮切りに、全37戦。渋野には、それに加えて、4月1日開幕のANAインスピレーションなど米メジャー5試合にも挑戦する。

今年最終戦の終わり方を見れば、メジャー2勝目の可能性も十分ある。コロナ感染の影響次第だが、国内ツアーがちゃんと開催されれば、今年の終盤と同じように、国内ツアーで調子を上げ、米ツアーを迎える、いい流れをつくることもできる。

もともと渋野は試合をこなしながら、調子を上げていくタイプ。それに加え、今年身に付けたあらゆる状況に対処する力と、感情をコントロールする力。21年は、延期された東京オリンピック(五輪)も控える。プロ3年目も、渋野のゴルフにワクワク、ドキドキさせられそうだ。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

11月15日、報道陣から誕生日祝いで贈られた花束を手に笑顔を見せる渋野日向子
11月15日、報道陣から誕生日祝いで贈られた花束を手に笑顔を見せる渋野日向子