偶然見た映像で、信じられないようなショットを見た。ゴルフファンにとっては有名かもしれないが、ゴルフ記者歴1年の自分にとっては衝撃的だった。そのショットが繰り出されたのは13年3月24日、米フロリダ州オーランドのベイヒルCで行われた、米男子ツアーのアーノルド・パーマー招待最終日。10番パー4の第2打を前に、当時33歳のセルヒオ・ガルシア(スペイン)は、大きな木によじ登っていた。

このホールのティーショットを、ガルシアは大きく右に曲げていた。するとボールは、地上約3メートルの木の上へ。太い枝が5方向に分かれる谷間で止まっていた。まず、そんなところにボールが止まったことに驚かされる。木の形状とボールの位置から、狙いを定めて打つことは不可能。普通なら木によじ登る前、少なくとも無理な体勢からのショットを強いられると確認したら、1罰打が加わるアンプレアブルを宣言するところだ。だがガルシアは、果敢に打つことを選んだ。

ガルシアは木の上で3分にもわたり、うろうろと足場を変えながら、最善策を模索していた。そして選んだのが、コースに背を向けて右手だけで放つバックショットだった。左足は宙に浮き、左手を太い枝の上に置いてバランスを保つ不安定な体勢。だがボールは枝の間を抜けて、見事、フェアウエーに戻ってきた。このミラクルショットに、見守ったファンからは大歓声が上がった。さらに、しゃがみ込んでも2メートル以上はある高さから飛び降り、着地も見事に決めて、さらに観衆をわかせた。それでも結局、続く第3打をミスし、このホールをダブルボギーというオチがついてしまったが…。

この動画はYouTubeで、約900万回も再生されている。世界中を驚かせたプレーということの証明だろう。ボールを使ったスポーツとしては他に例のないような、自然との闘いや、広大なエリアを使ったプレーというゴルフの魅力が詰まっている。何よりも、1打に懸けるプロ意識の高さをうかがうことができる。

もちろんプロゴルファーが、こんな場所からのショットも、木登りも練習するわけはない。ガルシアは1月で41歳となった現在までに、メジャー1勝を含む米ツアー11勝。有名選手が見せた驚異のリカバリーショットだが、無名選手でも1打で世界に名が知れ渡る可能性もある。こんなシチュエーションに遭遇すること自体、ほとんどの選手はないだろう。だが、ガルシアのようなファンを魅了する“伝説の1打”に、いつかは遭遇してみたいと強く思った。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)