大接戦の末、勝みなみが大会連覇を飾った先週の日本女子オープンは、千葉・紫CC開催だったこともあり、大阪在住の記者は、同週開催で9月30日最終日のステップアップツアー・SkyレディースABC杯を取材した。下部ツアー唯一の4日間大会、舞台は男子のマイナビABC選手権を開催する名門、兵庫・ABCGCで見応えがあった。

一ノ瀬優希を取材した。「最近、どうしよっかな、このままでいいのかなって思うんです」。10月5日に34歳になる彼女は、難しそうな顔をした。

13~14年にツアーで3勝した。小柄だが、勝負強さが印象的な実力者だ。男子プロの夫、谷口拓也と結婚した19年を最後に1度はツアーから撤退し、20年10月に第1子を出産後、昨年8月NEC軽井沢72で復帰した。

復帰当初は楽しかった。再挑戦は新鮮なものだ。しかも約230ヤードだった飛距離が、今季は238ヤード前後まで伸びた。

「子どもがもう体重12キロぐらいで『抱っこ、抱っこ』と来るから、こうやって。理由はそれしか考えられない」

子どもを抱くマネをして“育児筋トレ”を説明した。

それなのに「どうしようか」と考えている。

「一番に考えるのは子どものこと。もう2歳で、意思の疎通もできてきて、なおさら『親の愛情、足りてるかな』と考える。なるべく離れる時間を作りたくない。そうするとトレーニング、ストレッチが足りない。練習も足りない。今のトップの子たちって、もうめちゃくちゃ一生懸命にやってますから…」

復帰後、下部ツアーでは20位以内が6戦で3回と戦えているが、ツアーは6戦で予選落ち5回。正直、戦えていない。

「やるからには上に行きたい。だから『出たい』って思いだけで出るべきなのか。経費もかかるし」

第一線で戦った経験があるだけに、なおさらジレンマが大きい。

女子ゴルフの若手台頭はとんでもない。

Skyレディースで優勝した宮沢美咲、3週連続Vをかけて臨んだ桜井心那は昨年11月プロテスト合格組で、レギュラーで優勝した川崎春花、尾関彩美悠や佐藤心結も同期。98年度生まれの黄金、00年度のミレニアム、01年度の新世紀がいて、菅沼菜々がいつ初優勝してもおかしくなく、もう「稲見だけのはざま」ではない99年度組。その上、20年度プロテストに合格した岩井ツインズの「21年度6月組」に加えて「21年11月合格組」も出てきた。

もっと言えば、新垣比菜、浅井咲希ら黄金世代のツアー優勝経験者が早くもシードを失った。少しでも歯車が狂えば、20代半ばでも立場を守れない。その“新陳代謝”は異常なぐらい速くなった。

それでも、ママさんプロは頑張っている。若林舞衣子は昨年7月GMOレディース・サマンサタバサ杯で33歳で産後初優勝した。36歳の横峯さくらもツアーで奮戦中だ。「今週は“私は戦いに来てるんだ”と思ってプレーしようとここに来ました」と一ノ瀬は言った。彼女たちの存在がツアーをより分厚く、おもしろくする。人として成熟した生きざまを、これからも見せてほしいと願うばかりだ。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)