全英女子オープンを制した渋野日向子(21)は、秋にかけて国内で賞金女王争いを繰り広げました。残り3戦となった11月中旬の伊藤園レディースでまさかの予選落ちし、悔し涙を流しながら「賞金女王は私の口から言っちゃいっけない」と終戦を宣言。しかし、その翌週にまたしてもドラマのような優勝で女王の可能性をよみがえらせたのです。日刊スポーツでは「しぶこの足跡」と題し、31日大みそかまでの7回、WEB連載で今季の戦いを再掲載(毎日正午掲載予定)。第6回は大王製紙エリエール・レディースでの国内4勝目です。

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賞金女王を争う鈴木との同組対決の末に、手にした優勝は格別だった。プレーオフに備え、パッティンググリーンにいた渋野が万歳する。2組後ろの最終組にいた森田に、並ばれる可能性が消えた。泣きながら“吉報”を伝える帯同の定由早織キャディーに、泣き笑いして抱きついた。

ドラマは終盤に待っていた。17番パー5。1打差をつけていた鈴木が第1打を池ポチャ。優位に立った。ところが、自分の第2打もあわや池に消えかけた。池越えのグリーン左奥に切られたピンへ。残り217ヤード、5番ウッドの2オン狙いが、池の向こう岸斜面で止まった。

「ドッキリしました。ボールがどこにあるかわからなくて」

水面まで約2ヤード。ツキを生かし、3オン2パットパー。ボギーの鈴木に2打差をつけた。

最終18番パー4では天気が激変した。第1打直後から、雨まじりの突風が発生。右ラフから、グリーンエッジまで残り111ヤードの第2打はピッチングウエッジ。クラブを2番手も下げてパーにまとめた。そんな“嵐”の影響をもろに受けたのは、渋野とトップで並んでいた森田。17番が猛烈な向かい風で、パー5なのに3オンできず、ボギー。1打後退した。

渋野が前回優勝した9月東海クラシック最終日は最終組の7組前で出て、64の猛チャージ。ホールアウト後に天候が悪化し、8打差の大逆転Vだった。

再び神様を味方につけた。

会見で「あ~息切れ」と切り出した渋野は言った。

「(前週の)予選落ちはムダじゃなかった。初心に戻れた感じです。自分のためじゃなく、両親、コーチ、キャディー、ギャラリーのために頑張ろうと思っていました」

鈴木との同組対決は8試合11度目だった。鈴木は4度優勝につなげたが、渋野は初めて。「技量、レベルは全く違う。何か、と考えたら気持ちかな。そこは負けないように頑張りました」と笑顔を見せた。

女王の夢をつないだ。最終戦となるLPGAツアー選手権リコー杯で優勝すれば、鈴木が単独2位にならない限り、逆転戴冠となる。「いや~(賞金女王を)考えなくて勝ったんで」。最終戦までの2連勝で女王を決めれば、史上初の快挙。全英を制し、賞金女王の可能性も最終戦まで残した。

“しぶこフィーバー”で沸いた2019年。最後の1ホールまで、彼女は観衆の視線をくぎ付けにすることになる。